ようやく

 戻って来たぞ、そんな気がしている。

 夫の出勤時にスクーターで一緒に最寄り駅まで行くのが常だった。

 昨年11月に転倒し、肘を骨折して以来、スクーターを禁じられていた。

 腕の力が落ちはしたが、怪我は今年に入ってほぼ元通りに回復していたのに、夫は中々許可しない。金属プレートが入っているし、せっかく綺麗に治ってきているから大事にしたい、と。

「じゃあ一体いつになったらいいの?」

「うーん・・・」

 夫も迷っていた。

 4月末、ようやくOKが出た。

 5ヵ月半ぶりの、夫の肩越しに流れる、早朝6時の町の景色。

 あ、令和最後の淑女だ!

 ・・・それは駅付近で時折見かけた、80歳前後の小柄な女性。エレガントな帽子をかぶり、真夏でも手袋をはめ、駅前の道をショートカットすることなく、少し遠回りになる横断歩道をきちんと渡る。その人のことを私は密かに令和最後の淑女と呼んでいた。

 あ、嵩高いウチのムスコ!

 ・・・20代半ばの大柄な男性だ。杢グレーのだぶっとしたスエット上下、ポケットに手を突っ込み、背中には大きなリュック。気だるげに体をゆすって歩く姿に・・・ああ息子がいたらこんな感じかしら・・・と、よそ様の大切なご子息を、勝手にウチの子に見立てていたのだったが、こちらも変わらぬ姿を見せてくれた。

 夫を見送って引き返す道では、散歩中の小さな白いワンコと遭遇することになっている。

 ああ、日常を取り返した。そう思えて感慨ヒトシオ。