銀婚式過ぎたロミオとジュリエット 5/20

 喧騒に安らげる。

 ここは街中の病院。幹線道路に面し、東隣は消防署、西は川を挟んで区民ホール、斜向かいに警察署。すぐ近くに商店街の賑わいがある。

 自宅からはギリギリ徒歩圏の、生活圏に建つ。

 病院前は普段から通る道だから、窓の外は馴染んだ光景。すぐ前に市バスの停留所、交通量の多い道路、消防署から昼となく夜となくサイレンを鳴らして緊急車両が発進していくし、真夜中にバイクが爆音を響かせる。

 この騒々しさが、今自宅に近いという安堵をくれる。

 これまで三度の入院は、いずれもM病院だった。山あいの、田畑と住宅街が混じり合った盆地町に建つ、大きめの病院。

 のどかで療養には相応しく、地元の信頼も厚い存在。だが、自宅から車で1時間近く掛かる、私には不便な立地。去年の入院時などはコロナもあって夫との面会も許されず、まるで隔離施設にいるみたいだった。

 

 と、ここまで書いて事件は起こった!

 土曜正午、食事が済み、手にした携帯に夫からライン。

『病室の窓は東向き?』

『ううん、道に面した北向きだよ』

『何階だったっけ?』

 ん?    まさか??

 部屋の窓にかけ寄り、外を見る……

 バルコニーの向こう、すぐ下の幹線道路、歩道に寄せて黒いヘルメット、黒いウチのスクーターが!

 ア、アナターーーーー!!

 慌ててサッシ窓からバルコニーへ出た。

 夫はヘルメットを脱いでこちらに笑顔を向けてくれる。

 どうしていいか分からず、嬉しくて、大きめの声で名を呼ぶ私。夫は歩道の通行人を気にしながら、

会えてよかった

 と口パクで言ってくれた。

 私は小さめに叫んで、話せればいいのにね。

 しかし何も出来ず、笑顔を交わして、夫が走り去るのを見送った。