時々しか使わない川沿いの道を夫とスクーターに乗って通りかかると、夫が。
「ここの並木、桜だったんだね」
街路樹のソメイヨシノが道の両側で三部咲きになっていて、ふんわりとした薄桃色をまとっていた。
「ほんとだ。普段は何の木だか気に留めないもんね」
私には思い当たることがあった。去年の春、しょっちゅう利用するスーパーの駐車場に桜の花が咲いていてハッとしたのだ。この川沿いも年に十回くらいは通っているのに。花が終わって葉が茂ると、私の中で他の木と一律に緑の街路樹になってしまう。
「きれいだなぁ」と夫が呟く。
いいんだと思った、これで。この木が桜であることを忘れてしまっても。そしてまた驚ける、嬉しくなれる、来年も再来年もずっとずっと何度も何度も。