しがらみ、は言いすぎの関わり

 結婚以来26年間使った電子レンジが壊れたのが去年。5年前に亡くなった舅のお下がりを持って帰って使っていた。

 それも先日壊れた。製造からちょうど十年の製品。これが平均寿命のよう。ネットで症状を調べると、修理に2万円強。買い替えを決めた。

 家電量販店を見て、ネットを見て。アマゾンなら送料込みで翌日配達。料理にあまり熱心でない私には、複雑な機能は要らないから安くで済んだ。

 新しいのが届いた翌々日が燃えないゴミの日だったので、早々に壊れたレンジを出すことにした。

 舅のレンジ。酷かった。恐らく舅は、使用5年間、一度も掃除をしなかったのだろう。持ち帰って扉を開けて、悲鳴を上げそうになった。中が焦げ焦げのカビカビ。

 半日かけて、重曹やら中性洗剤やら歯磨き粉やら油汚れに強い洗剤やら、家にあるものを総動員して綺麗にした。

 が! 使う度、ほんのりと、時に強く、夫の実家の匂いが漂い続けるのには参った。

 こういってはナンだが愛着を持てないままでいたので、買い替えに未練はなかった。

 ・・つもりが。

 燃えないゴミの朝、集積所に運んで下ろした途端、置いた電子レンジがぽつんと、寂しそうに見えて。辛くなった。走って帰った。

 

 新しいレンジは、台に据えてしまうと、もう数年来そこに在ったような馴染み方で、これも怖いほどだ。

 シンプルで、新しいものはソツなく良く出来ている。強いて言うならスイッチ群が押しにくい。フラットにしてあるので汚れにくいが、指の力の弱い私はもたつくことも。

 インスタントコーヒー用にマグカップを一日に何度となく温める。出来上がると、ピーピーと呼んでくれる。取り出そうと前に立つと、以前のものにはなかった『出来あがり』の表示が出ているものだから、つい「ありがとー」と声にしてしまう。

 これが『歳を取るにつれて独り言が増える』というやつだろうか。

 晩年一人暮らしだった舅も、電子レンジに話しかけたりしたのだろうか。