盗み見ていた転校生

 電気シェーバーの刃が傷んでいるらしく、剃った後ひりひりする、と夫が言うので、昨日私が電気屋さんで買ってきて交換した。

 今朝、洗面台で「全然違うわ、滑らか」と夫。

 私は、対応してくれた店員さんが親切だったことを話して。

「その人ね、ほら、中学の同級生だった林君をしゅっと細くして、優しくしたみたいな感じ。ふとっちょの林君、覚えてる?」

「ああ。でも、林は大学生になってがりがりに痩せたけどね」

「そなの?! 林君て帰国子女の転校生だったのよね。私達の町って田舎だから、海外からの転校生が珍しくて」

 ところで、夫も、同じクラスになったのは中学時代だが、小学六年生の時にやってきた転校生だった。

「アナタが転校してきた時も覚えてるわ、私も田舎者だから、転校生が珍しくて。見かけない男子と廊下ですれ違って、あ、よそのクラスの転校生だ、って」

 背の高い、色の黒い、上がり目の男子。すると、夫がしみじみと。

「五十三歳になって、小学生の時のこと言われるんやからなぁ」

 だって、よく覚えてるんだもん。私が笑うと、夫は大真面目に。

「いや、笑ってるけど、すごいことだよ、小学校のことが通じるなんて中々ないよ」

「そうだね、便利だよね、話が早い。担任の先生のことも説明抜きに分かってるしね」

 よかったね、私たちが一緒で。そんなことを今更思う。来月で銀婚式。

    ♪ 短いけれど心を打つ。朗読ですがよろしければ全文どうぞ ♪ 

    雨ニモマケズ - よろしゅうおあがり - Radiotalk(ラジオトーク)