口の堅い夫、口の軽い妻

 先月、夫の職場の後輩の披露宴司会を私がさせて頂いた。依頼を受けたのは春、その際、夫は後輩さんに条件を出した。

 謝礼は一切受け取らない、こちらからも祝いは包まない、司会者手配代を浮かせて新生活や新婚旅行に使うこと。

 しかし後輩さんはやはり気を使う。まず式のひと月前の打ち合わせにはお洒落なインテリアグッズを下さった。

 披露宴当日、「菓子折りですから」と大きな焼き菓子の箱を下さった。帰って開けると、箱の中に『お車代』が入ってて!

 さらに翌日、カタログギフトが配達された。

 ちょっとちょっと約束違うや~~んと、慌ててライン。お礼と、司会者を会場で手配したらこんなに気を使わなくて済むのに気の毒であること、それから当日頂いたお菓子のことを 『時代劇で悪代官が悪徳商人から小判を底に隠した菓子箱を受け取って「重たい菓子よのう、越前屋」っていうまさにアレやん!』 と。

 これを読んでお二人、大爆笑したとか。

 それにしてもお礼を頂き過ぎだ、お返ししようと相談。夫がちょうど通りかかった雑貨屋さんですっごくお洒落なツリーを見つけ、アマゾンギフト券とセットで用意した。

 異動になった後輩さんのお勤め先へ平日の昼間、私が届けることになった。

「俺がツリーを買ったとか一切言うな、俺はこの件には関係ない」

「えー、なんでよ、後輩はアナタに依頼したし、私もアナタの後輩だから受けたのよ」

「俺は式には関わってないし何もしてない、俺からとか言うと、向こうは気を使うから、キミからや言うて渡せよ」

 と念を押す。私は、このお洒落なツリーを選んだのは夫だと言いたかったので。

「なんでそんなに怖い顔で何回も言うのよぅ」

「キミは余計なこといいそうやから」

 バレてた。

 いよいよ後輩さんの職場まで出掛けた。

「ごめんね、忙しいのに呼び出して。このたびはいっぱい気を使わせて申し訳なかったです。渡したら帰るから、これだけ受け取って」

「えーっ、そんな、いいんですか」

 後輩さんは手渡した紙袋から覗くラッピングのリボンを見て、

「○○さん(夫の名)からですか?」

 あれだけ念を押されて白状するわけにもいかず、苦し紛れな

「ううん、サンタさんから」。

 なんと白々しいシラの切り方。バレてるって、分かるって。後輩さんは、アナタの人柄を見て、大事な披露宴の司会を頼んでくれたんだから。

 今回、披露宴会場で他にも夫の後輩とお話が出来た。少しだけど、職場での夫の姿が垣間見えた。三人が口を揃えて『口の堅い男』。

 ともあれ、後輩さんへお返しのクリスマスギフトを届けて、ようやく全てが終わったように感じた。

 夜、帰宅した夫が開口一番、

「これでようやく終わった気がするなぁ」

 と言うから、可笑しかった。

    ♪ 短いけれど心を打つ。朗読ですがよろしければ全文どうぞ ♪ 

    雨ニモマケズ - よろしゅうおあがり - Radiotalk(ラジオトーク)