しづこころなく

 枝は葉桜、雨上がりのアスファルトには花びらが折り重なって貼り付いて。

 近所の桜名所、住宅街を貫き下る桜の坂道は、何事もなかったかのように静まっているが、先週の日曜日など、ここは商店街かと思う人込みだった。

 

 桜の品種は色々あるけれど、ソメイヨシノの良さは格別だ。

 こう、夫が毎年つぶやく。

 

 咲き始めればあっという間に満開を迎え、ほどなく花びらがハラハラ降る。

 ああもう終わってしまうのだと惜しくてたまらないが、その頃が一番綺麗だと思う。

 さようなら、また来年の春に。

 

 年を取ると子どもに帰っていく、というけれど。

 今穿いているのは十四歳、中学二年生の時に買ってもらったジーパン。

 …ジーパンとかジーンズは死語で、今はデニム? でも私のは世代的にジーンズだ…

 十六歳から太り、穿けなくなり、しかしなんとなく捨てられないまま箪笥の奥で眠り続けること三十余年、病で体重が落ち、四十後半になって日の目を見ることとなった。

 身長も、五十を超えて二センチ縮んだ。考えてみると、現在、五十四歳の私は、ちょうど中学一年生の時の身長と体重なのだと気付いて不思議な感じがする。

 

 なんでもない事なのに、今日はなぜだか…。

 所用があって出掛けた繁華街。イベントが行われているのに気づき、歩を止めると「そこで立ち止まらないでください」とスタッフから注意された。その口調は丁寧だったし、嫌な感じはなかったのに。

 その場を離れてからも私はずっと、叱られた、という気持ちを引きずってしまった。

 家の近所まで帰ってきたところで、ご近所の主婦に呼び止められた。

「どこかの家から水漏れしてるみたいで側溝に結構な量の水が流れてるの。お宅は違う?」

「出掛けていたので分かりませんが心当たりもないし、帰って調べます」

 それだけのやり取りなのに、なぜかとても不快だった。

 訳もなく沈む、そういう日があるのかもしれない。バイオリズムというの?

 つまり気のせいだ、これを書いたら吹っ切って、夕ごしらえにかかるとしよう!