コロナじゃないよ

 夏から秋にかけての新型コロナ第五波では、夕方のニュースで報じられる感染者数に怯える毎日だった。

 緊急事態宣言下で、多くの人が外出を控え、様々な業種が時短営業を余儀なくされた。開けていても売り上げが見込めないと、休業に踏み切ったお店も少なくなかった。

 シャッターが下りたままになっていて、気にかかるお店が、私には三つあった。

 一つは、ソバメシ屋さん。繁華街にあって四人がけテーブル三つという小さなお店だが、味だけでなく、女将さんの穏やかで温かい人柄に惹かれ、リピーターが絶えない。私たち夫婦も結婚前から時折足を運んで、かれこれ三十年になる。先日訪れたが、『しばらく休業いたします』の張り紙。そろそろ営業再開しただろうか。

 二つ目は、うさぎ専門店。家からスクーターで五分とかからない住宅街の只中にある、年季の入った小さなお店。我が家のうさぎが一昨年亡くなるまで、牧草やフードを買っていた。用がなくなってこの二年は前を通る度切なかった。感染拡大した頃からシャッターが閉まってしまった。

 三つ目は、やはり年季の入った、町のケーキ屋さん。かつて有名洋菓子店で修行したらしい、パティシエというより菓子職人という感じのする、物腰柔らかなご主人。こちらもスクーターで通る度、シャッターと『しばらく休業』の張り紙を確かめていた。

 三つのお店は、緊急事態宣言が解除されても開かずにいた。このまま閉店してしまうのか。そんな不安を覚えていた。

 が、おととい、ケーキ屋さんが開いていた!スクーターを急いで停めて駆け込むと、ご主人がショーケースの向こうから先に、

「こんにちは」と声を掛けてくださり、ショーケースの上で、なにやら紙を広げて示してくださる。足首のレントゲンのコピーだ。

「くるぶしの上を骨折しましてね、手術して金属のプレートを入れたんです」

 と今度は紙を裏返し、術後のレントゲン写真を見せてくださる。足首の骨に添う十センチほどの金属プレートとそれを留める七つのボルト?がくっきり白く写っていた。

「まあ!私はてっきりコロナでお店を閉めておられたんだとばかり。いつお怪我を?」

「九月末に、雨の日にバイクで鉄板の上でこけましてね」

 全治二ヶ月。早く治った方だがまだ腫れが引かないとか。

 ずっと気になっていたこのお店の復活が嬉しく、買って帰ったケーキは変わらない美味しさで。

 いやしかし、思いがけない理由だった。何でもコロナのせいにしてはイケマセヌ。コロナは勿論影響力大だが、それ以前からの人生や大切な暮らしの中の一つでしかない。コロナであろうがなかろうが、事故も起こるし、お祝い事もある。続いていくのだ。

    ♪ 短いけれど心を打つ。朗読ですがよろしければ全文どうぞ ♪ 

    雨ニモマケズ - よろしゅうおあがり - Radiotalk(ラジオトーク)