給湯器を替えない本当のワケ

 給湯器のお得なキャンペーンの電話があった。今なら初期費用がかからない上に月々の料金もぐっと抑えられる、と。

 電話口の男性の堅苦しいほどの生真面目な話しぶり。我が家の給湯器は古くて、いつ壊れるかしれない。少し心が揺れ、途中まで聞いていたが、なにせ夕飯時だった。今時間がなくて、と断った。

 受話器を置いて食卓に戻り、夫に説明しかけてハッと我に返った。

「ダメよっ、給湯器替えたらアポロもよっちゃんも困るわ」

 アポロはうちの元野良にゃんこ、よっちゃんはこの地区の野良連合のボス猫。

 庭の給湯器は前の住人が設置した相当古いもので、今時のと違い、直径70センチ、高さ170センチのドデカい円筒。てっぺんは、日向ぼっこに良し、ベランダが庇になり雨宿りに良し、冬はじんわり暖かい。アポロもよっちゃんもお気に入りの場所だ。

 数日後、同じ人から電話があった。今替える予定はないと伝えると、どれだけ料金が下がるかのシミュレーションだけでもと熱心に勧めてくれる。これは、もう、笑われてもいいと覚悟を決めた。

「あの、替えない理由を正直に白状しちゃいますね」

 包み隠さず言った。相手が柔らかく笑った。私も笑った。攻防の様相が一変した。

「そうでしたか、いやうちも隣の猫ちゃんが給湯器に来るので、餌をやったりしてましてね。お勧めしている給湯器は、冷蔵庫くらいのサイズだから、かえって猫ちゃんも喜んでくれるかもしれません」

「まあそうなんですか、でも今のを気に入ってますし、使えるうちはこのままで」

 和やかな締めくくりを迎えた。…明日給湯器が壊れたら笑えないけど( ̄▽ ̄;