夫に内緒にしていたことが

 春頃から、水槽の水が漏れ始めたことを、夫に黙っていた。

 幅60センチの水槽には22才、甲羅長17センチの亀がいる。

 飼った頃は500円玉大で、私達夫婦は31歳だった。

夫「亀は長生きで寿命は30年くらいだよ」

わたし「じゃあ、アナタの定年退職を一緒に祝おう」

 かくして亀は我が家の一員になった。

 夫は甲斐甲斐しい人で亀の世話をよく焼いていたが、仕事も年々きつくなるし、この数年はヒマな私が担当・・と言っても、水槽の水を4、5日おきに換えるだけ。

 3ヵ月ほど前、水槽の下にほんの少し水が溜まっていた。おそらく底のシーリングだろう。もう15年程使っているから経年劣化と思われる。水が部屋へ溢れるかと焦ったが、漏れはほんの僅か。一晩で雑巾が湿る程度。

 夫に話せば、「大変だ、直ちに買い直そう。この際だからもっと良いものに替えてやろう」となって、ネットやらホームセンターやらを駆けずり回ることになる。しかし、夫は仕事が忙しい。休みの日くらい自分のことや体を休めるのに使ってほしい。

 漏れは何とか僅かにとどまっているし、今より少しサイズの大きい水槽を密かに探しながら、毎日そっと雑巾を絞って当てていた。

 が! おととい、水を換えた後、雑巾からぽたり、ぽたり。や、やばい。1時間で洗面器1センチの水が漏れた。お昼前だった。どうしよう。夫の帰りを待って夜ホームセンターに駆け込むか。いや亀の為に早く帰ってきてとは言いたくないし、疲れて帰る夫に用をさせたくない。水槽は重くて私では運べない。配達してくれる店なんてないだろうし。いやいや緊急事態だ。アマゾンを見ると、最短で明日午前中配達! これだ! 勝手に水槽買ってもいい? とラインで打ちかけて、いやいや、こんなことで仕事中の夫を煩わせなくていい。腹を括って、ポチった。

 その後夕方になると、水のしたたりが止まった。

 帰宅した夫に事の顛末を打ち明け、勝手に水槽買ってごめんなさい、と。

 夫はちっとも怒らず、「もっと早く言えばよかったのに。全部任せてごめんな。他に困ってること(黙って何とかしようとしてること)はないか?」。

 昨日正午、無事亀の引っ越し完了。

 この数か月、ずっとこっそり絞っていた雑巾も晴れて撤去。実は先月の検査・・水槽の水漏れが気がかりで留守に出来ず、一泊入院を二日間通院に分けて貰ったのでした。