舞台裏(2

 芸事の世界だなぁ・・・・。
 このスクールの発表会に関わって思うことだ。
 バレエという究極の洋物でありながら、歌舞伎や生け花、茶道、芸妓の世界に通ずるような。
 廊下ですれ違う生徒さん達は伸びやかで、物怖じしないイマドキな笑顔を見せてくれる。それなのに、私の頭の中には、お師匠様に向かい、冷たい板間に三つ指を突いて「おねがいいたします」と挨拶をする、和の芸事の稽古風景が浮かぶ。
 おそらく、生徒さん達の行儀がいいからだろう。発表会の舞台スタッフ一人一人に対しても礼節が感じられる。私など、発表会でしか会わない、しかも舞台袖要員なのに、顔を覚えてくれている子も多くて、「よろしくおねがいします」と可愛い笑顔を向けてくれて、もう、恐縮するやらデレデレなるやら。彼女達はどうやら私のことを”アナウンスの先生”とでも言われているのではないか。

 先生方の、はた目にも厳しく、親身な指導は、親御さん達へも及ぶようだ。
 発表会の運営はすべてお母様方が行う。自身のお子さんの身支度もそこそこに、分担して係を担当するなど組織的なものを感じる。私が知り得るのは当日のことだけだが、受付で入館者の管理、ゲスト出演者とスタッフの昼と夜のお弁当、飲み物、楽屋口のケータリングの手配、他にもいろいろあるのだろう。

 お母様方といっても若い方ならまだ二十代だろう。貫禄漂うお母様もいれば、今回が初めてのような余裕のない感じの方もいる。そんなお母様が、受付でただの影アナの私が名乗るなり、畏まって「本日はよろしくお願いいたします」と腰を折り、お弁当とお茶、ミネラルウォーターのセットを差し出す。その後もずっと、廊下ですれ違う度の丁寧な会釈。あと、私がお世話になるのは、当日届くお花の差出人リストを頂くことであるが、これも保護者内の申し送りがあるようで、「お花のリストは何時頃までにお持ちしましょうか」と訊いて下さる。
「二部の後か三部の後の休憩時にアナウンスしますのでそれまでに」と私が言うと、
「では、二部の初めか三部の初めにお届けします」と神妙な面持ちで答えて下さる。

 10~15時までリハーサルが続き、本番が16~20時半。舞台が動いている間の裏方はすべてお母様方の組織だった至れり尽くせりの働きで回る。その真摯さに私はいつも頭の下がる思いがする。そこに、なんというのか、子にバレエを習わせる親の覚悟まで、このスクールは問うているような気がするのだ。

 心を磨く。作法を身に付ける。その姿勢で技術を磨く。バレエの美しさは、よく耳にする「優雅な白鳥も水面下では必死に水を掻いている」を通り越し、水の下でさえも優雅に足を動かすことを目指すものではないかしら。