夫婦、結び目は固く

 夫婦喧嘩のそもそもの発端なんて後から思い出せないくらい些細な事が常だ。
 が、そこから互いの在り方へと本質的な衝突を露わにしてしまうのも、常。

 TVを見ながらの他愛もない会話。
「俺、それを何回も言ってたのに聞いてないってイラッとするわ」
「ごめん」
「な、キミはよく俺に「さっき言うたやん」って怒るけど、こういうことってあるんやから」
「・・・前はこんなことなかったよね、なんでこうなるかな」
「さあ、もしかしたらお互い年のせいかもしれんし」
「私達、いつからこんなに仲悪くなったかな」
「キミはまた、そっちへ話を持って行く。で、離婚がどうのっていうんやろ。それ嫌やっていつも言うてる。話のすり替えや、問題解決になってない、その事の方が余計にイライラするわ」
「だって・・・」
 明日は休みで、せっかくまったりとTVを見ながら夕ご飯食べてたのに、あ~あ。
 夫はそれ以上喋らず、スマホを眺めたままになる。
 私は、自分が悪いんだろうけれど、もうこの状況がしんどくて、自己嫌悪もごめんだ、いっそのこと離婚されたほうが楽なんじゃないかと、夫の様子を通り過ぎざまにちらりと見る。夫はスマホで地図を見ていた。
 先に寝た。
 翌日、なんとなくぎくしゃくと始まった朝だったが、電化製品を修理に持って行く予定を立てていた夫が、頃合いになると「そろそろ行こうか」。で、支度をして車に乗り込んだ。
 私達は子どももいないせいか、98%同一行動だが、別行動になる日も来るかもしれないし、今後は有ってもいいのかもしれない。
 電気店で用件は済み、その頃には夫が普段通りの調子で会話をしている。そのことを探って確かめている自分がいる。
 お昼前で、いつもの回転寿司店へ寄るのかと思っていたら、車は高速道路へ乗った。
 どこへ行くのか不明だが、その点には触れず会話を続けた。そのうちひょっとしたら、という行き先が浮かんだ。
 20分ほどで一般道へ降りて、知らない道を走って、幹線道路を一本入ったところにある、小さくておしゃれなレストランの前にとまった。それは前々日、夫が先輩に連れてきてもらったというハンバーガーのお店だった。
 あの日、帰宅した夫に「チェーン店のファーストフードじゃないハンバーガーってどんな? 美味しかった?」と私は尋ねたのだった。
 店の前に車を停めた夫は「ここのは、軽食というより、ハンバーガーが一品料理って感じの美味しいお店だった。キミも一度食べてもいいと思って」
 夫も私もグルメ情報に疎いが、夫は外で働き、付き合いがある分、誰かに教えて貰ったりして良いと思ったものを私にも教えてくれる。
 ふと、前夜、スマホで地図を見ていた夫を思い出した。口論直後の黙り込んでいた時間に、私を連れて行ってやろうと、お店の場所を調べていたのだと思ったら、胸が詰まった。この夫に、私はどれほど救われ、守られているのだろうな。夫婦って複雑ですごいと他人事のように思う。