同級生ゆえに苦くて

 同級生の夫とは例えば中学時代の先生のこととか話がすんなり通じて便利だと、前回書いた。ほぼ利点ばかりだが、時々ふいに思い出して胸が痛むこともある。
 37年経っても切ない。
 中学三年の秋の早朝のこと。私たちは吹奏楽部で、その日は県の吹奏楽イベントに出演予定だったが、台風接近も懸念されていた。予定通りなら6時45分に学校前に集合し、バスに乗って現地へ。
 起きて窓の外を見ると、雨も風もわずかで薄日が差している。いってきまーすと玄関を出、団地の階段を下りきった所に、夫が立っていた。夫の家は徒歩圏内とはいえ通学路はまるで違う。しかも、なんといっても片想い中の相手である。それが私の家の前に来ているのだから、どれだけ驚いたか。
「・・・なんで??」
「今日はイベント中止だって」
「・・・え、あ、そうなの。でも、なんで・・・?」
「連絡網をさ、〇〇君がお前んとこに回そうとしたけど、電話がつながらないって俺にかけてきたから」
 私は言葉が出なかった。父子家庭の我が家、父親は職転々としていて経済的に苦しかった。電話料金が滞って、回線を一時的に止められることが度々だった。
「わざわざ、来てくれたの・・・」
「だって、知らずに学校行っちゃうだろ。じゃあな」
 それだけ言って帰って行った。
 恥ずかしかった。
 次の日も、その後も夫は何も言わなかった。
 夫はそういう人だ。
 私は今だにあの朝を時々思い出してしまう。その度ほんのり苦くて口に出さない。
 一度だけ、持ち出したが、夫は覚えていなかった。
 たぶん、本当に忘れてしまっているみたいなんだけど。それならいいんだけど。