しゃべる 2

 ヘンな子だったみたい。
 物心つくと、駅のアナウンス、TV番組のナレーション、留守電のメッセージなどに、妙に耳を留める子どもだった。
「なもなく三番線に急行電車が参ります、黄色い点字ブロックまでお下がり下さい」
「只今、出掛けております。ぴ~と鳴りましたらお名前とご用件をお話し下さい」
「お掛けになった電話は、現在電波の届かない場所におられるか、電源が入っていない為、かかりません」
 サザエさんを観ても、耳に残るは、
「エレクトロニクスと明日を創る、東芝がお送りいたします」。
 声色も真似ながら、仲のいい友達に披露してウケを狙った。
 かといって放送部に入ったりはしなかった。
 そんな私が、自分でもよく分からないけれど、32歳になって突然アナウンススクールへ通いたいと言った。結婚して数年経っていた頃で、夫は目を真ん丸にしたが、
「やりたいなら、やってみれば」
と、以後全面協力してくれた。
 人は時として思いもかけぬ方向へ進むのだ・・・なんて大仰な事を言ってみたり。