生きる意味

 なぜ生まれてきたんだろう、とか、

 人生ってなんだろう、とか。

 これまでに何度かは考えたことがあったと思う。

 幸せでありたいし、人に喜ばれる偉い人になれるにこしたことはない。

 だけどね、アポロのだらけきった寝姿を見てるとね、

”猫一匹、こんなに幸せにしてやれたなら、それで十分じゃない”

 そう思える。

 アポロとは元野良猫で、耳にV字の切れ込みがある、いわゆる地域猫。ボランティアさんのお世話になって避妊手術を受けた野良で、繁殖できない一代限りの命だから大目に見て下さい、という印しを持っていた。

 6年前に我が家の庭に現れた時、手術捕獲された経験が心の傷になっているのか、元々臆病だったか、物凄く警戒心が強かった。

 餌を出しても口を付けなかったのが、少しずつ少しずつ慣れて、我が家に出入りできるようになって、今では床の上にひっくり返って、夫にお腹を撫でさせている。まだ物音にびくついたりするが、当初の事を思えば、触れるようになるなんて思ってもみなかったことだ。

 この春からは夜、私の隣で眠るようになった。

 その、みっともないほどに弛緩した姿を見ているとね、こう、

”猫一匹、こんなに幸せにしてやれたなら、いいか”

 と思えてくるのだ。