ポケットの中身

 物事を後回し先延ばしにするのはいつものこと、2ヵ月半たってようやく、他のドライ洗濯物と一緒に父の形見のベストを洗った。薄手のウールで前ボタン開き、背広の下に着る、父はチョッキと言ったっけ。
 チョッキとベストはどう違うのかと今更の疑問をググってみた。結論から言えば日本では同じもので、ベストは米英語で正しくはヴェスト(笑)、チョッキは日本だけの言葉で、ジャケットが訛ったか”直着”から来たものだとか。
 チョッキの他にも幾つか、私にとっては主に父、年配の方にしばしばみられる言い回しがある。鶏肉をかしわ、ハンカチをハンケチ、固ゆで卵をにぬき、ごぼうをごんぼ、おでんを関東炊き、蕪をかぶら、お刺身をお造り。特ににぬきは関西でしか通じないようだ。
 関西特有のものの多くは京都、お宮、女房言葉に由来するようで、あらためて父の京都育ちが裏付けられる。社会人になり、京都を離れた父は、京言葉、特に男性が使う京都弁が嫌いだと言っていた。意識して使わいようにしているとも。なのに、出ていたのだなぁ。
 出る、といえば、父の遺品を整理した時の事。夫に促され、処分する服類のポケットの中を念の為改めると、年がら年中水洟の出た父らしく、次々とティッシュが手品みたいに出てきた。笑いながら古い背広のポケットに手を入れたところ、指先が違うものをとらえた。皺くちゃの二つ折りの封筒の、中が何やらじゃらりとする。覗くと、色も形もまちまちの十数個のボタンが入っていた。何をまぁ後生大事に…。不意を突かれて声の出ない私に、夫が「やられたな、お義父さんらしいや」。裁縫が出来た父は糸と針を身近に使ったから。
 父の形見として、昔から着ていたチョッキ1枚とこのボタンだけを私は持ち帰った。
 私なら、亡くなった後に、夫や弟を”アイツらしい”と笑わせるものって何だろう?

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