コロナな春のつれづれ

 三日ぶりに外出した。運動不足が怖くなり、バスをやめて徒歩にした。
 ゆうべからの雨が止んで、午後にはやわらかい陽が差していた。桜並木は緑のトンネルに変わっていた。住宅街を歩いていると、家々の玄関先に咲く花の色が目に飛び込んでくる。ああ、春なんだなぁとしみじみする。この春は特別鮮やかに見えてしまう。
 コンビニでは、レジカウンターの上にビニールのカーテンが垂らしてあった。なるほどと思ったが、お金の受け渡しは結局手から手へ、だ。店員さんはどうなのかな、怖いだろうか、ゴム手袋をはめて接客したいとか思っているのかな。
 道で人とすれ違う時も、なるべく距離をとってみたり。
 細々と利用しているメルカリに、観光地の土産物の卸をしている方から大量出品されていた。賞味期限の迫った品が格安セットになっている。この時期、観光客もなく、こうした処分に踏み切ったのだろう。お品も良いし、ここはひとつ協力しようと思ったが、これってなんだか上から目線かしら。半額ほどの値段で買うというのは足元を見ていることにはならないか。しばらく迷った。それでも、売りたいから出品しているのだからと、購入ボタンを押した。
 届いた品を受け取りに玄関先に出て、ふと、宅配業者さんは常に人と接し、危険にさらされているのだなと思い至る。マスクをして出るべきかと迷った。それで思い切って、その配達員さんに訊いてみた。マスクをしてほしいと思いますか、と。
「僕は自分がしてるからどちらでもいいです」
「暇になってしまう業種が多い中で、配送関係は人手が足らないそうですね」
「もう今めちゃくちゃ忙しいです、みんな家にいて、ポチるでしょう?」
 私の受け取ったものもまさにポチったものだから苦笑いになる。
「そういう僕だって家にいる時はポチってますよ」とフォローしてくださった。
 出来るだけ距離をとり、スキンシップを避けることが思いやりになるなんて、こんがらかった世の中になってるなと思うけれど、それでも笑顔で言葉を交わせたあとは、心がじんわりする。
 そうかと思えば、携帯に嫌なメールが届く。日に何度も。宅配業者名で、本日配達予定の品があり、時間指定が出来るという内容。品はマスク50枚。私は頼んだ覚えがないから引っかからないけれど、こんな時勢だから、マスクをネット注文した人も多いだろうというネット詐欺の手口。不安な気持ちに付け込もうなんて、反吐が出るほど腹が立つ。人間のすることじゃない、とさえ思う。
 今、感染予防の鍵となるのも、人間、なんだよなぁ。

桜、外出、マスク、無限の岐路。

 おおかた終わりました、桜。昨日からの雨と、夜通しの強風で。
 でも長持ちしてくれたんじゃないかな、咲いた後少し気温の低い日もあったし。
 今年もありがとう、桜。まだ残っている花さん、もう少しよろしく。f:id:wabisuketubaki:20200413173851j:plain 今、世界は大きな天秤の上で揺れている気がする。    

 爆発するか、収束に向かうか。あるいはもう未来は決まってしまっている?
 祈りながら、恐れながら、家から外へ出て行う事をひとつひとつ迷い、決断する。
 食料品の買い物は許される?
 図書館は止めた方がいい? 銀行はどうしよう。
 JRに乗るか乗らないか、地元のバスなら大丈夫か?
                        
 既に朝6時に、薬局の前に数人の人が並んでいた。お店が開くまで四時間か。
 私は数年来、バイク用に布製のマスクを使っている。
 思い出したのだけれど、小学生の頃、給食当番はマスクが必要だった。みんなは薬局で買ったガーゼのマスクなのに、我が家の昭和一桁生まれの父は、
「そんなもん、わざわざ買わんでも簡単に作れるんやで」
と、薬箱からガーゼを、裁縫箱からゴムひもを出してきた。
 ガーゼを畳み、ゴムひもを挟んで折るだけ、ミシン要らず。
「な、これならサイズも無限に調整できる」
 なるほど布(ガーゼ)同士の摩擦があるから縫わなくてもズレない。
 でも、あの頃の私は、皆と同じ、薬局で売ってるマスクが良かったんだ。
 どうしてもマスクが手に入らない皆さん、
 ハンカチを畳んでゴムひもを掛ければ簡易マスクが出来ますよ~^-^/

桜舞い散る頃に

 今日の春めいた風に花びらが舞い、それはため息を吐くほど美しい桜吹雪だった。今年は誰もが特別な思いで桜の木を見上げたのではないだろうか。

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 志村けんさんは体調不良を訴えて間もなく意識不明になり、自身がコロナに罹ったと知らないままに・・・というようなことがTVで語られていた。
 私はリウマチ持ちで、免疫を抑える薬を服用して十年になるのに、普段から風邪もひかず、インフルにもかからないので、油断というか、ちょっとナメてるところがある。
 が、この度のコロナ、志村けんさんの話に、万一のことを考えた。
 もし罹ったら私はあっけなく重症化して意識を失ってそのままになるかもしれない。
 昨夜、TVで緊急事態宣言のニュースを見ながら、夫に言った。
「私ね、辛い生い立ちだった、子ども時代は貧しかった、苦労したとさんざん言ってるけど、大人になって、あなたと結婚して、もう取り返したから。今死んでも”ああ幸せな人生だった”と笑って言えるようになってるから。ありがとうね」
「なんでそんなこと言うの?」
「だってね、突然意識がなくなったら言えないじゃない」
「絶対罹らんといてよ」
「うん、そのつもりだけど、万が一よ」
 何が起こるか分からない。          f:id:wabisuketubaki:20200408180501j:plain
 半年後、世界がどうなっているかも分からない。こんな状況をほんのひと月前まで考えもしなかった。そんな世の中で、でも私はこの春新しい一歩を踏み出して、もう一花咲かせようと、夢いっぱいのアラフィフである。

 そして毎日思っている、世界が静まりますように、一日も早く。

ひとの目なんてどうでもいいの

 近所の桜並木。
 この時期は訪れる人でいっぱいなのだけれど、今年はひっそりとしている。
 見てくれる人がいないのは寂しいだろうか。
 仰ぎ見たけれど、別にそんなことはなさそうだ。むしろ伸び伸びと咲いているように感じる。
 桜並木の町に住んで十年、気付いた事がある。桜の蕾は、お正月の頃にはもう枝についているのだ、小さいが確かに。
 早くから着々と準備をし、いよいよの時期となり花を開く。
 訪れることがなくても、人々が寄せる愛着は揺るぎない、ワタシはこの世界に愛されている、この世界のすべてのものと同様に。
 桜たちは知っているのだ。
 世界を、コロナのことを憂い、応援してくれていると、そんなことを感じた。

夫婦、結び目は固く

 夫婦喧嘩のそもそもの発端なんて後から思い出せないくらい些細な事が常だ。
 が、そこから互いの在り方へと本質的な衝突を露わにしてしまうのも、常。

 TVを見ながらの他愛もない会話。
「俺、それを何回も言ってたのに聞いてないってイラッとするわ」
「ごめん」
「な、キミはよく俺に「さっき言うたやん」って怒るけど、こういうことってあるんやから」
「・・・前はこんなことなかったよね、なんでこうなるかな」
「さあ、もしかしたらお互い年のせいかもしれんし」
「私達、いつからこんなに仲悪くなったかな」
「キミはまた、そっちへ話を持って行く。で、離婚がどうのっていうんやろ。それ嫌やっていつも言うてる。話のすり替えや、問題解決になってない、その事の方が余計にイライラするわ」
「だって・・・」
 明日は休みで、せっかくまったりとTVを見ながら夕ご飯食べてたのに、あ~あ。
 夫はそれ以上喋らず、スマホを眺めたままになる。
 私は、自分が悪いんだろうけれど、もうこの状況がしんどくて、自己嫌悪もごめんだ、いっそのこと離婚されたほうが楽なんじゃないかと、夫の様子を通り過ぎざまにちらりと見る。夫はスマホで地図を見ていた。
 先に寝た。
 翌日、なんとなくぎくしゃくと始まった朝だったが、電化製品を修理に持って行く予定を立てていた夫が、頃合いになると「そろそろ行こうか」。で、支度をして車に乗り込んだ。
 私達は子どももいないせいか、98%同一行動だが、別行動になる日も来るかもしれないし、今後は有ってもいいのかもしれない。
 電気店で用件は済み、その頃には夫が普段通りの調子で会話をしている。そのことを探って確かめている自分がいる。
 お昼前で、いつもの回転寿司店へ寄るのかと思っていたら、車は高速道路へ乗った。
 どこへ行くのか不明だが、その点には触れず会話を続けた。そのうちひょっとしたら、という行き先が浮かんだ。
 20分ほどで一般道へ降りて、知らない道を走って、幹線道路を一本入ったところにある、小さくておしゃれなレストランの前にとまった。それは前々日、夫が先輩に連れてきてもらったというハンバーガーのお店だった。
 あの日、帰宅した夫に「チェーン店のファーストフードじゃないハンバーガーってどんな? 美味しかった?」と私は尋ねたのだった。
 店の前に車を停めた夫は「ここのは、軽食というより、ハンバーガーが一品料理って感じの美味しいお店だった。キミも一度食べてもいいと思って」
 夫も私もグルメ情報に疎いが、夫は外で働き、付き合いがある分、誰かに教えて貰ったりして良いと思ったものを私にも教えてくれる。
 ふと、前夜、スマホで地図を見ていた夫を思い出した。口論直後の黙り込んでいた時間に、私を連れて行ってやろうと、お店の場所を調べていたのだと思ったら、胸が詰まった。この夫に、私はどれほど救われ、守られているのだろうな。夫婦って複雑ですごいと他人事のように思う。