何の変哲もない、幸せ

 年と共に涙腺が緩くなるというけれど。

 残暑の繁華街、デパートを出たところで、親子連れに追い越された。お母さんと5歳位に見える男の子。

 お母さんは男の子と反対側の手に、ハンドバッグと、買い物してきたらしい紙袋を提げていた。文明堂の紙袋には台風接近に備える為か、上からビニールのカバーが掛けられている。お使い物かも。マリンボーダーのカットソーに水色のスカート。

 男の子は薄いベージュの帽子を被り、紺のTシャツと明るいグリーンの半ズボンからひょろりとした手足を伸ばしている。

 追い越しざまにお母さんの声が耳に入ったのだ。

「じゃあさ、帰ったらアイス食べよう、シャワー浴びてすぐに」

 男の子の返事は聞こえなかったが、少し体が弾んだように見えた。

 ただそれだけのこと、ほんの一場面なのに、私はじ~んとなってしまった。

 ひっそり明るい台所、ひんやりした床、まもなく帰宅する母子が冷蔵庫のひと時の午睡を破る。わくわくと扉を開くのだ。

 そのままずんずん遠ざかる二人の後ろ姿がぼやけていった。

父の言葉とともに季節は進む

 目覚し時計で目を開けて、外が暗いことに驚いた。天気が悪いわけではない。先週までもう明るくなってきていた5時10分の空が、まだ明けなくなったのだ。

 子どもの頃、父が言った。「お盆過ぎたら海へ入ったらアカンて昔から言うんや」

 それは亡霊に足を掴まれて海の中へ引き込まれるからだということだったが、実のところは、お盆を過ぎると海水温が下がって足が攣り、おぼれる危険性が高まることと、クラゲが増えることから、海へ入るのを控えるよう戒めた言葉らしい。

 梅雨明けから尋常でない暑さが続いていたが、お盆休みが終わった朝に、風の涼しさを感じた。こんな気候の夏でも、お盆を過ぎればやっぱり気温が下がるのかと感じ入ってしまった。

 この風は、あれだ、小学校のプールの授業で夏の終わり頃に感じた風だ。水面から顔を出して空を仰いだ時に、頬に当たったのと同じ風。これがお盆を過ぎた風だ。

 トンボはとっくにすいすい飛んでいる。夏は峠を越し、秋風が立ち始め、やがて。

曼珠沙華とも言うが、ヒガンバナいうんは不思議なもんや。ちゃんと彼岸頃に咲く」

 季節の廻るに従って、幾度となく聞いた父の言葉が毎年同じように頭の中で響く。

 そういえば、父が亡くなったのは昨年の9月20日、お彼岸の頃だったんだ。そこここにヒガンバナが咲いていた筈だが目にした記憶がない。今年はしみじみ眺めるとするか。

アイスの当り引換えの、自主規制

 夫とのお盆休みは、録画したバラエティやドラマを見て、買い物に出かけて、昼寝して、ちょっとだけ家内の修繕、と寝正月みたいな6日間だった。

 弟のブログを覗き見れば、子どもをプールや遊園地へ連れて行き、宿題の工作を手伝い、海岸沿いへワンコの散歩に出掛けていて、頭が下がるというか。

 それでも私なりに心に留まることはあって。

① 夫が借りてきた映画を鑑賞した。
 そもそも私は自分から進んで映画を見ることがない。映画やドラマは心を揺さぶるように作ってあるから嫌いだ。出来れば避けて通りたい。しかし夫は必ず私に一緒に見させる。途中で私がスマホでも弄ろうものなら不機嫌になる。ま、この夫のおかげで私はこれまで沢山の名作に触れることが出来たのだ。

 さて今回は4本。夫が劇場やネットの予告で目を付けていた『トゥームレイダー・ファーストミッション』『イップマン3』『バース・オブ・ザ・ドラゴン』『ザ・ウォール』。またまたM2層度注入。
 『バースオブザドラゴン』よかった~。重さと軽さが私に程よい。

② アイスの当り棒と泣く泣くサヨナラした。
 休み中は毎日夫とアイスを食べた。出かけた帰りにコンビニで「今日はこれ」と選んで買って帰ってお八つに頂いていた。さて最終日に私が久々の『ガリガリ君』を食べていると、棒に何か書いてある…、おおッ当たりだ、当たり付きだったのね! 子どもの頃からとことんクジ運のない私は喜んだ。が次の瞬間。

「これ…いい歳のオバサンがコンビニのレジで「当たりました」って言いにくいね…」
「…そうやな…小学生まで、かな…」
 顔を見合わせるアラフィフ夫婦。
「あ~あ姪っ子が近くにいたらあげるのに」「ささやかなプレゼントやなぁ(笑」

③ 初老だってチャーミング。
 お盆のホームセンターは混んでいた。並んだレジの進みがどうも悪い。前の数人の背中越しに見ると、まだ新人さんかしら、60代と思しき女性店員さんの動きが遅め。うヌヌ。その風貌にも目を引くものが。肩より長いウェーブの髪にカチューシャ、頬にはオレンジとピンクの間位のしっかり目のチーク。

 さて我が家の番に。店員さんはカゴの中身を、商品のバーコードをスキャンしながら別のカゴへ移していく。夫が欲しがった、蓋のない小物入れBOXをまずピッ。次に猫缶をピッ。もう一つ同じ猫缶をピッ。……ごそ、ごそ。

「あら無理だわ、入らないわ、ごめんなさいね」ゴニョゴニョ

 何をしようとしていたのかとカゴを覗き込むと、このレディ、先に移した小物入れの中に、猫缶を収めようとしていたのだ。なるほど確かに2個ちょうど収まりそうなサイズだがギリアウト。

 いやいやそもそも、なんで小物入れに猫缶をジャストインさせようと?? その必要は全くないのに、ふと思いついちゃったのか。だとしたらその発想力、可愛すぎるっっ

 レジを離れた途端、夫に言った。

「今の人、不慣れそうだからシンドイだろうに、嫌々仕事をしてないね、きっと」

 思い出す度、可笑しくて可愛らしくて。暫く笑えるな。

機嫌のいい時にだけ

 歩いて15分弱のところに大きな公園がある。広い芝生の広場と遊歩道、遊具があり、幼児を連れた家族や、ランニング・ウォーキングする中高年で、晴れた週末ともなれば賑やかだ。

 夫もよく休みの朝にトレーニングに出掛ける。往きはひとり歩いて公園まで、帰りは私がスクーターで迎えに行く。

 公園では大小さまざまなお散歩ワンコを見かけるのだが、その中に時々「バウ、バウ、バウ」と吼えるコーギーがいる。

 街中での飼い犬のマナーとして、日本ではフンの始末のほうが問題視されるが、欧米では無駄吠えが非常に嫌われるらしい。

 コーギーの吼え声は低く太く、私はあまりいい気がしなかったが、何度も見かけるうちに気付いた事がある。

 そのコーギーは初老のおじさんに連れられて現れる。毛並みは少しもさついて、もう若くないらしい、のそのそゆっくりな足取りで芝生を横切ってゆく。全く鳴かず至っておとなしいワンコである。

 ところが、顔見知りのワンコや飼い主さんに出会うと、「バウッ、バウッ」と鳴き出すのだ。

 てっきり怒って鳴いていると思っていたら、さにあらず、尻尾をちりちりと愛想よく振っている。明らかに喜んでいる。どうやらこのコは嬉しい時にだけ鳴くのだ。

 それが分かった途端、吼え声が愛しく微笑ましいものになった。

 怒りや悲しみでなく、機嫌のいい時にだけ声を高くする。中々真似できないな。

M2なF2

 今日はいつにもましてど~でもええ個人的ハナシで…。

 TVでダウンタウン松本さんが「このネタはF2、F3層には全く受けない」と言った時、私は大口開けて笑っていてギクリとしたことがある。常々気になっていた点を突かれた思いがしたからだ。

 TVや広告業界の視聴者層を指す言葉で、分類は以下の通り。
    M1→男性:20歳〜34歳
    M2→男性:35歳〜49歳
    M3→男性:50歳以上
    F1→女性:20歳〜34歳
    F2→女性:35歳〜49歳
    F3→女性:50歳以上

 私は見た目まったり完ぺきな日本のオバちゃんなのに、視点がM2なのだ。披露宴の司会をしていたも、はさんだジョークがウケるのは新郎の友人層だった。

 これは、父・弟との3人家族だった事と、結婚後は夫の見る映画やバラエティしか見なかったからであろう。

 今我が家のハマり物というか録画リストに入っているのは、

 アメリカのドラマ『メンタリスト』 『コールドケース中村吉右衛門さんの『鬼平犯科帳』 『相棒』 バラエティ『マツコ会議』 『月曜から夜更かし』 『マツコの知らない世界Eテレ『0655』 『2355』 『香川照之の昆虫すごいぜ』 『ケータイ大喜利』『水曜どうでしょう』 『週刊バイクTV』…。

 また家で一人TVを点けっぱなしにする時のプレイリストは『刑事コロンボ』 『攻殻機動隊』シリーズ 『ガリレオ』シリーズ 『ブレードランナー』 『黒い十人の黒木瞳』『劇場版SP』を延々リプレイ…。

 他に何度も見るのは『フォレストガンプ』 『MIB』 『スターウォーズ』シリーズ 『バンドオブブラザーズ』…あ、勿論ファースト・ガンダム世代です、好きなキャラはマチルダさん。

 私一番のお奨めは『メンタリスト』です!!

 こうして日々M2,3へと精進を続け…同じ趣味の女性いらっしゃいませんか~^^;

 唯一F要素を留めるのは読み物で、女流小説、特に向田邦子さんが大好き!