父の言葉とともに季節は進む

 目覚し時計で目を開けて、外が暗いことに驚いた。天気が悪いわけではない。先週までもう明るくなってきていた5時10分の空が、まだ明けなくなったのだ。

 子どもの頃、父が言った。「お盆過ぎたら海へ入ったらアカンて昔から言うんや」

 それは亡霊に足を掴まれて海の中へ引き込まれるからだということだったが、実のところは、お盆を過ぎると海水温が下がって足が攣り、おぼれる危険性が高まることと、クラゲが増えることから、海へ入るのを控えるよう戒めた言葉らしい。

 梅雨明けから尋常でない暑さが続いていたが、お盆休みが終わった朝に、風の涼しさを感じた。こんな気候の夏でも、お盆を過ぎればやっぱり気温が下がるのかと感じ入ってしまった。

 この風は、あれだ、小学校のプールの授業で夏の終わり頃に感じた風だ。水面から顔を出して空を仰いだ時に、頬に当たったのと同じ風。これがお盆を過ぎた風だ。

 トンボはとっくにすいすい飛んでいる。夏は峠を越し、秋風が立ち始め、やがて。

曼珠沙華とも言うが、ヒガンバナいうんは不思議なもんや。ちゃんと彼岸頃に咲く」

 季節の廻るに従って、幾度となく聞いた父の言葉が毎年同じように頭の中で響く。

 そういえば、父が亡くなったのは昨年の9月20日、お彼岸の頃だったんだ。そこここにヒガンバナが咲いていた筈だが目にした記憶がない。今年はしみじみ眺めるとするか。