年2回しか会わない客の名を

 クリーニング屋さんの記憶力にびっくりする。
 そのお店には転居してきた数年前からお世話になっているけれど、自宅で洗えないほどデリケートな衣類がほとんどないから、足を運ぶのは年2回。

 それなのにだ。

 開け放たれた引き戸をくぐるなり、「あら○○さんだったわね、いらっしゃい」とすぐに店主の記憶の扉が開かれる。

 店主の女性はシャキシャキしておられるが70代後半と見える。こういっては何だがモノワスレが始まっていても可笑しくない。小さな店だけど住宅街の只中にあって客も多い。

 それなのに、だ。

 実は、以前お世話になったクリーニング屋さんも、やはり70代の女性だったが、同様の記憶力だった。

 客の、顔は見覚えていたとしても、名字がすっと出てくるものだろうか。クリーニング業界には客の名前に絡む記憶が強まる何かがあるのではないかと、いぶかしむようになった。


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