50歳の、卒業。

 赤十字からの通知が郵便受けにあった。私宛だ。もしやついに、だとしたらマズイかも……封を切らぬまま夫のいる居間へ持って行った。
 17年前に骨髄バンクのドナー登録をした。もっと前から希望していたが、「健康な体に不必要なメスや針を入れて欲しくない」と夫に反対された。当時、移植中の麻酔事故による死亡例を1件だけ耳にしていた。認めてくれたのは、夫の母が末期癌で亡くなった翌年だ。傲慢かもしれないが救える命があるのならと。共にリスクを負うと言い、夫もドナーになった。そして今日まで夫にも私にも適合患者が現れることはなかったが。
「ね、お呼びだったらどうしよう、私もう…」
 駄目だと思うのだ。リウマチ治療のために数年前から生物製剤という特殊な投薬を受けている。私の骨髄液は使えないのでは。せっかくドナーが見つかったと喜ぶ患者さん達をがっかりさせるのか。
 夫の前で恐る恐る開いた中身は、登録延長についてだった。
 私が登録時には50歳までだったが、現在は54歳まで引き上げられている、登録延長可能なら51歳の誕生日までに手続きを、というものだった。
 ほっとした後すぐに、寂しいような気持ちが沸き上がってきた。
 喜ぶべきか残念なのか分からないが、誰の役にも立てなかった。
 ともあれ、ドナー卒業である。