マグレあ・うん

 我が家はゲコゲコ家族、夫も私もお酒を飲まない。夕食後におやつをつまむから、買い置きをしている。

 スーパーのお菓子の棚を眺め……今日はしょっぱ系はおにぎりせんべいにして、甘いサクサク系はまだマリービスケットが残ってる、残業で疲れて帰ってくるだろうからぎゅっと甘いもの、かりんとうかチョコ菓子系が要るかな、ポッキーは私が昨日食べちゃったんだった、広告の品で特価のトッポを足す? 柔らか系はういろうがあるし、…そういえば昨夜のアーモンドチョコを「これおいしいよなぁ」と夫がしみじみパクパクしてたっけ、2日続きになるけど今日要らなくても冷蔵庫に入れとけばいいや、同じの買っとこう!

 夫はナッツ菓子のロースト具合が気になるらしいが、それは以前から好んで時々買う品だった。

 夕食後に他のお菓子と一緒にアーモンドチョコを出したら、夫が言った。

「ちょうどコレが食べたかったんだ」

「え、そうなの?」

「帰りのバスの中でコレ食べたいなぁと思って、コンビニで買って帰ろうかと思ったぐらい」

「そんなに!?」

買っといてよかったぁ~~、でかした私! えへへと誇らしいのを誤魔化して、

「残業で疲れてるからぎゅっと甘いものが欲しいんだね」なんて言ったりして。

 

 けれどだんだんヒヤリとしてきた。

 私は鈍感だ、こんなふうに夫の思いを酌める事なんて滅多にない、今回だってポテンヒット

 逆に、普段一体どれほど沢山の事を取りこぼしているのだろうか、と。

 

 で、今日は買っとく? 地道にバント??

高橋を何と読む??

 乗ったバス、いつもの路線。信号で止まった交差点名プレートを見るともなく見る。漢字で大きく「高橋」、その下にローマ字で「takabashi」…ん?んん??

 タカ・バ・シ!? タカハシじゃなく!?

 いやあびっくりした。タカハシ、だと思い込んでたよ。ほらごらんこれだから名前の読み方は怖いんだ!!

 私は名前の読み違いが大事になる仕事をしていた。だから「高木」を「タカギさんですか、タカキさんですか?」と尋ねる。「山崎」を「サキですか、ザキですか?」と訊く。

 しかし「山元」を「ヤマモトでよろしいですか?」と言うと、相手は「え?他に読み方がありますか」と怪訝になる。しかししかしだ、「ヤマゲン」かもしれないじゃないか、念の為です念の為。固有名詞の読み方は、本当に意外なことが多いし、違ったらオシマイなのだ。

 かく言う私も「高橋」を「タカバシ」と疑ったことはなかった。

 あらためて、怖い!

子どものケンカに親

 昼下がり、庭で「フギャ~~オ」と猫の雄叫び。さっき出て行ったうちのアポロではと庭に面した掃き出し窓へ急ぐ。我が家の庭にはヨソの猫やアライグマなんかも来ることがあるが……アポロだ、庭を囲う胸の高さのフェンスの上で、おっと向かい合っているのはよっちゃんだ。

 よっちゃんというのはここいらのボス猫で、夫が「なんとなく」名付けた。小栗旬似の飄々としたイケメンである。

 身を固くしているアポロに対し、よっちゃんは涼しげに立ちはだかっている。

 アポロは狩りの名手で俊敏だが、物凄く臆病で、他の猫にはいつもイジメられるのだ。おそらくアポロが過剰に怯えて騒ぐものだから、相手も気分を害し、押さえつけにかかるのだろう。先々代のボス猫からは一撃を食らって傷を負い、左アゴが腫れあがったことがある。よっちゃんは比較的大らかなボスだが、追い詰められたアポロが下手に動けばどうなることか。

「おい、こら」と叫んでみたが何も動かず、そこに履き物はなく、玄関に取りに行く猶予もなく……ええいっ、裸足で下り、小石を拾ってよっちゃんの手前を狙った。が、当てる気がないのは伝わるのだろう、よっちゃんはこちらを見ようともしない。ただ、”あ~あ親が出てきた、アホくさ”とでも思ったか、ゆっくりと踵を返し、去って行った。

 あとには固まったままのアポロと、裸足で踏ん張るアラフィオバサンが。

 とりあえず上り口で足の砂を払って、振り返ると、アポロの姿もなかった。

 助けたかったのだけど、これって”子どものケンカに親が出て”になるのかな、私が余計なことをしてアポロに恥をかかせたのかな……そんなことが思われてきた。

 私はきっと、もし子どもがいてイジメられてると分かったら、相手や学校へ怒鳴り込んでいくタイプかもね、そんな事をしたら後で余計にイジメられるかもしれないのに。

 常々思っている事だが、世の親御さんはどれ程の心労と深き思慮で我が子を守り育てているのだろうか。私には無理だったなとつくづく思う。自分に子どもがいないことに胸を撫で下ろす。そして、そんな私も何十分の一かぐらいはこうして味わわせて貰う訳で。

 いつも、大事なことを教えてくれる小さきいのちに、ありがとう。

夫婦喧嘩、そして

 我が家の夫婦喧嘩の典型的なカタチ。

 お昼過ぎ、二人で帰宅したら、夫宛宅配の不在票が。夫は再配達の連絡をしようとしたが、私が「いつも夜もう一度来てくれるから大丈夫だよ」と言うので、やめた。

 そのまま、気が付けば夜9時になっていた。

夫    来なかったじゃないか。あーあ、こんな事ならあの時、君の言う事聞かずに、自分の思った通りに連絡したら良かった。

私    だって、いつもは来てくれるもんっ

夫    …もういいよ、俺が悪いんだ。俺の責任だよ。今度から自分で判断すればいいんだから。

私   私の言う事なんか聞いたら駄目なのね⁉︎

夫  現に来てないだろ⁉︎  

 その通りだが、あまりに酷い言い方ではないかと言う私と、  あとは感情的になるだけだからと話をしなくなる夫。

 その後、時間が経つ中でおさまっていく。

 落着までに私が考える事は…… 共に暮らすたった一人のパートナーの言う事さえ信じられないなんて、アナタはそれでいいの⁉︎ そんなパートナーでアナタは可哀想ね(実際申し訳なくも思う)。私は夫の信頼に応えられない存在なんだ…。こんなの一緒にいる意味ないじゃない!

 いつもの流れ、パターンだ。

 

 ところで今回は、翌朝になっても私の気持ちは辛かったので、穏やかな口調で夫に言った。

私    アナタに信頼されない自分が情けない。こんな無能な私だけど、無能なりに、自負心はあって、このままアナタのそばにいるのは辛い。少し頭を冷やしたいから、ひとりで合宿してきたいんだけど。

夫    合宿っていつどこにどれくらい?

私    思いついたばかりだから、これから考える。ちゃんとプラン立てて見せたら、認めてね。

 夫は、う〜ん、と唸った。

 

 私は、話して気分を立て直せたのと、合宿、マジでいいかもと思えた。

 これまで私用で家を留守にしたことなんかなくて、正直嫌だけど、夫を少し困らせた分、自分をも罰する意味で、これは近々実行して、反省したほうがいいような気がした。

 プランを立てる上でヒントが欲しくて「ひとり  合宿」と検索してみたら!「ひとり合宿」という言葉が既にあった。ひとり合宿のススメみたいな記事がいっぱいあった。主にリフレッシュやビジネスに役立てるものとしての、動機と目的が私とは違う、ステキなものだったけれど。1泊2日でもOKみたい。

 さて、この秋あたり、私は旅立てるだろうか。

大人になってトクしたこと

  高校生の時に私は、大人になりたくない、と言った。諦めたり、ズルくなったりして生きるのは嫌だと思った。

  その願いは幸か不幸か叶って、子どもを持たないから幾つになっても親の立場でなく、子どものままの目線で、精神的に成長出来ずにいる。

  しかし、それでも変化したことはあって。

  学生時代に大嫌いだった友達と卒業してから仲良しになれたこと、とか。少し俯瞰で見られるようになるのかな、全然嫌なヤツじゃなくて、むしろ好いヤツで大好きになってしまった。

  こういうのも成長ではないかな、大人になるっていいなと思う。