初めてのデート、海老のしっぽ

 今年四月に他界された田村正和さんの追悼番組『古畑任三郎』シリーズをあらためて楽しんでいる。

 田村正和さんはプライベートを見せなかったという。特に食事する姿は家族にさえ見せず、ご自宅では離れで過ごされたとか。

 ものを食べる姿はエロティックで恥ずかしい、いつだったかTVで話す方がいた。

 私はそこまでは思わないけれど、梅干や果物の種、魚の小骨を人前で口から出す時、いつも躊躇を覚える。

 迷って焦った挙句、エビの尻尾を呑み込んだことがある。夫と付き合い始めたばかりの頃、初めて夕食を一緒に食べたときのことだ。

 ファミレスでメニューを開いて思案した。緊張していてもスプーンを使うものなら食べ易いだろうとグラタンを注文した。ところが。

 こんがり焦げ目のついたグラタンには小ぶりなエビが三つ載っていた、尻尾の殻が付いたままで。スプーンとフォークを使ってもその小さな殻をスマートに取る自信はなく、かといって手を使うことも躊躇われた。どうしようかとスプーンでエビをすくったところで、彼と目が合った。私は慌てて口に運んだ。

 が、出せるわけがない。覚悟を決めて、悟られぬよう、がじがじと尻尾を噛み砕き、呑み込んだ。

 途端に、あっ、となった。私のエビに殻がついていたことを彼が気付いていたら? 『あ、こいつ、エビを殻ごと食べた』と思われたんじゃないか。

 もう、顔から火が出そうだった。

 後になって、意を決して訊いてみたところ、彼はまったく気付いていなかった。

「何だそんなこと、気にしてたの」

 エビは彼の大好物だった。以後、殻の有無に関わらずエビは彼に引き受けてもらっている。なんとか愛想を着かされることなく交際は続き、結婚して今に至る。めでたしめでたし・・・?(笑

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