それこそが宝物

 アラフィフになって物欲がなくなってしまった。いいなと思う洋服があっても、持ち物が増えるのが嫌で買うのをやめる。今あるもので十分じゃないか、と言えば聞こえはいいが、単にモノグサというか、おしゃれゴコロの低下で、これって老化かしら、オンナを捨ててることになるのかしらと危ぶんでもいる。

 猫に小判、豚に真珠というけれど貴金属やブランド物には以前から縁と興味がなかった。

 とはいえ、物凄く欲しかったもの・・・記憶をたどると幾つも出てくる。

 一番大きいものは今の夫。中学時代、同じクラスになって、席が近くになって親しくなって、好きになって。でもその頃、夫には両想いの女の子がいたから、私は即諦めた。諦めたまましばらく好きでいた。だから二十歳を越えて再会して付き合いだした時に不思議な心地がした。

  一番小さいものは、クリップ。何の変哲もない、紙を挟むゼムクリップ。これも中学時代のこと。当時は今みたいに可愛い文具がなかった。カラーのクリップ自体が珍しかったのを、手先の器用な夫が、赤いクリップの一部を90度ペンチで曲げてハート型にし、好きだった女の子にあげていた。それがもう羨ましくて羨ましくて指をくわえて見ていた。形状が形状だけに、片想いをひた隠しにしていたこともあり、私にも作ってよとは言えず、でも諦めきれず、塾で他校の友達に頼んで同じ物を作ってもらったけど・・・手の平に載せて眺めても、ちっともときめかなかった。あれこそ、永遠に手に入らなかったもの、になるかな。38年前のことなのに今でも切なさを味わえる。