だって美味しいんだもの

 私個人は大雑把でいいかげんな人間だ。けれど。

「日本人ってやっぱり几帳面で細やかなんだと思う」

 しみじみ思ったのだ。

 オフィス街にあるカレー店でお昼を食べて出てきたところだった。数年前に夫が入り、美味しかったからと、以来休日に時々私も連れて行ってもらっている。

 看板にはインド・ネパール料理と謳われていて、店員さんはインド系とおぼしき男性が二、三人、いずれも褐色の肌で日本語は片言だ。それほど広くない店の高い位置に設置された小さいテレビではミュージカル仕立てのインド映画のDVDが決まって再生されていて、独特の音楽が流れ続けている。

 メニューはナンカレーをメインにサイドディッシュや飲み物。本場の味という感じでカレーが美味しいのは当然、注文を受けてから焼かれるナンが大きくてふかふかしてて素朴なのに味わい深い。

 食べ初めから最後のひと口までずっと「美味しいねぇ」「美味しいなぁ」がとまらない。カレーの辛さはOから5までの6段階ある。夫は癖の強い食べ物や薬味、香辛料を好まないので、辛さOか1にする。辛み以外のスパイスを美味しいと感じられるところに、スパイスの国のワザを思う。

 私達夫婦のお気に入りのランチになっている。

 ところで。

 セットドリンクを「食後」と言っておいても割りと早い段階に供出されることが多々。

 ラッシーを頼んだのにチャイが出てくる可能性がある。

 辛さはOでも1でも同じ気がする。

 スタンプカードはランチ一つごとにスタンプ一つの筈だけど、夫婦で会計を一緒にするとスタンプは一つだけのことがほとんど。

 一瞬「ん?」となる時々のアレコレはあれど、アリガトゴザマスとはにかんだ笑顔の店員さんはいとおしく、言ったところでどこまで通じるかも疑問だし、何よりそれらすべてを呑み込んでしまう美味しさなのだ。

私「日本人が細か過ぎるんだと思う」

夫「?」

私「たとえば、辛さ。ベースとなるルーが作ってあって注文に応じて辛いスパイスを加えるんだと思うの。店員さんは二、三人居るじゃない、その時調理をする人が目分量でスパイスを足す。人によってさじ加減が違うから、1でも甘い日があったり、Oでも1くらいの辛さになったり。ナンの焼き加減も、前回だけすごくこんがりしてた。あれは、作った人の好みか、うっかり目を離して焼きすぎたのか。どちらにしても美味しかったけど。ドリンクを出すタイミングも店員さんそれぞれ。それからね、アナタはラッシーだから知らないだろうけど、私のホットチャイ、毎回スパイスの濃さが違うの。これも作る人のさじ加減だと思う。で、すごいのはね、スパイスが濃くても淡くても美味しいの!生まれた時からスパイスと生きているネイティブな人が作るからじゃないかな」

 スタンプカードだって、押し惜しみじゃなく、カードを出されて、ぽんと押してるだけ。一回出されて一回ぽん。こだわりがないんだ、きっと。

 調理も接客も、日本ではマニュアル化されている事々が、店長から店員さんに口伝の指示で任される。日本人には大雑把に見えるけれど、国民性というか文化や習慣、考え方の違いだろう。

私「つまりすべてはさじ加減で、それも含めてあの店の味わいなのよ」