微塵の躊躇もいらないのね

 今年は空や街路樹、道脇の草花の鮮やかさにハッとすることが多かった気がする。外出を控えたり、マスク着用で視野を狭くしているからだろうか、ふと目に留まる美しさが心に沁み入ってくる。

 紅葉の季節を迎えている。モミジの赤、イチョウの黄はもちろんだが、この数年、私は桜の落葉が楽しい。エンジ色の大きめの葉が落ちて、桜並木に降り積もった葉は、通りかかり、踏むと、ぱりり、とポテトチップみたいな乾いた音を立てる。乾いた、清々しい音だと思う。

 バスを降り、傾き始めた柔らかい日差しの中を歩いていて、もしやと、今まさに通り過ぎようとしている桜の枝を注視する。

 あ。やっぱり。米粒くらいの蕾がもうあった。

 数年前のお正月に見つけたのだが、むき出しの枝のそこここに小さいながらしっかりとした蕾があるのに気付いて、驚いた。今は12月だが、もう蕾がついていた。一体何時から準備は始まっているのだろう。まだ葉を落としたばかりなのに、春へ歩みだしている。

 私は何でもひと区切りとばかり終わりを意識しがちだけれど、自然界は常に次のステージへ進むこと、始まりしかないのかもしれない。