なんだろう

 ちょっと、驚く光景だった。
 それは朝六時過ぎ、出勤する夫とバイクに乗って駅へ向かう途中だった。
 静かな住宅街の前方を、男性と女性が歩いていた。
 後ろからだから表情は見えないが、二人共細身で、背筋はしゃんと伸びていて、男性はグレーのスーツ、女性はベージュのワンピース。後頭部の白髪の交じり具合から、六十代と感じた。
 ご夫婦ではないかと思う。並んで、黙って歩いているのだが、驚いたのは、二人が、つないだ手をぶんぶんと揺らして振っていることだった。
 高齢のご夫婦が手をつないでいるのを見た事がないわけではない。だが、はしゃいだ様子もないのに、つないだ手をあんなにぶんぶんと振っている中高年は見た事がない。
 通り過ぎた後、夫に肩ごしに声をかけた。
「ね、なんであんなに手を振ってるのかな」
「ああ・・・」
「ちょっとびっくりしたよね」
「うん」
「一種異様にも見えたんだけど、でもね・・・なんかすごく羨ましい」
 あと十年ぐらいして、何か余程嬉しいことがあった時に、私も夫とあんなふうにつないだ手を振りたい、夫は手をつないでくれるだろうか。思い切って、夫に正直な感想を述べておいた。それは、今日の私の願望をいつか叶えてねという布石であった。夫は覚えていてくれるだろうか。