ゆさとのお別れ 4

 亡くなる前日の朝には、ペレットどころか軟らかい青菜も食べないし、水も飲まないし、怖くなった。このまま何も食べないならば、動物病院へ点滴に行かねば。果物なら口も変わるし、カロリーも高めだし・・・祈るような気持ちでゆさの口元へ運ぶとしゃくしゃくと食べたので、胸を撫で下ろした。しかし量が少ない上に、夜になると又食べなくなった。
 もう猶予がない、次に打てる手は・・・毎日動物病院へ通うのはゆさにとって体力的負担とストレスになるだろう。食事さえ摂ってくれれば。そこで強制給餌を決めた。明日から始めよう。
 それまでは、ゆさをエージの中で横たえてしまわず、少しでも体を使って自分を支えたるよう、木のブロックにもたれさせていた。しかし食事や水分摂取が十分でなく、この夜はさすがにぐんなりと力の入らないゆさを、私は抱えて眠ることにした。ケージの横に座椅子を置き、おなかの上にゆさを抱えて一晩を過ごした。時々駄目もとで菜っ葉やフルーツ、人参を口元に運んでみたが、やはり駄目だった。おなかが空いているらしく、齧りかけるも、あごの力がないのか、うさぎに時として起こる歯のかみ合わせの不具合かもしれない、かわいそうに。
 ゆさをおなかに載せて過ごした長い夜は幸せなものだった。
 そうして夜が明けて、私はこの朝一番にまず獣医さんに点滴をお願いしようと考えていた。そして強制給餌に踏み切る。自分で食べるうちはと思っていたが、遅すぎたかもしれない。とにかく、ゆさ、今日からまた新たな挑戦だぞ。
 ケージにゆさを横たえ、夫を送り出し、家の中を片付けて、8時を回った。動物病院は9時半から診察だから、9時前に受付をすれば1番か2番で診てもらえる。早めに行こう。病院まではスクーターで10分弱だから・・・ケージにバスタオルを敷きこみ、診察券などを用意し、さあゆさ、行くぞ、とケージへ手を伸ばしゆさを抱えて、私はがくがくした。体が硬い、声をかけても反応がない! うそっ まさかもう亡くなってしまっているの!? ゆさのおなかに耳を当てるも、音が分からない、ややして聞こえる微かな動悸が、ゆさのものなのか私のものなのかも分からない。もう混乱してしまって、獣医さんなら蘇生させて貰えるのか、それとも無理なのか、今まだ息があったとして、スクーターで走っている間に息を引き取ってしまったら、あまりにかわいそうだ。迷い、考え、バスタオルにゆさをくるんでかばんを掴み、私は外へ出た。近くのバス停に、タクシーが止まっていたらタクシーで行こう、そうすればゆさに寄り添っていられる。しかしタクシーはいない。ああこんなもたもたしている間にも。やはり自分で連れて行こうとすぐに家に引き返し、スクーターの鍵をつかんだものの、ゆさを抱えて上がり框に座り込んでしまった。
 ゆさのおなかに何度も耳を当てるが、まだ息があるかどうかも分からない。こんなに瀕死では獣医さんでも無理か、いやそもそも高齢で衰弱したうさぎを延命治療してくれるだろうか・・・。
 静かに送ってやろうと決めた。茶の間に入り、座椅子で、ゆさを胸の上に抱いて泣いた。きっとゆさは8時ごろには息を引き取っていたのだろう。そうと分かっていれば、出かけ支度なんかせずに抱き続けていればよかった。
 途中で台所に立ったりしながらも、午後3時くらいまでそうしてゆさを胸に載せていた。