あの、風。

 あ、この風。頭の中でカレンダーを確認する。やっぱりお盆だ。毎年そう。お盆前後になると立ち始める。
 そうして、この風を人生で最初に感じた時の光景が勝手に浮かんでくる。
 学年までは定かでないが私は小学生で、プールの水面から顔を上げた時だ。
 頬に風を感じた。風は頬の表面をさわわと撫でるように流れていく。水から出たばかりの耳にかすかだが飛行機でも通過しているような耳鳴りがしていて、無意識に上空を仰ぐ。青天の高みのところどころに刷毛で撫でたような雲があるばかり。その間も頬を吹き抜けている風の穏やかさに気づく。涼しいとまでは言わないけれど暑さがない。そういえば太陽も、まだぎらついているけれど少しだけ遠のいたような感じがして。

 秋の気配なんて言葉を知らない頃の、鮮やかな感覚の記憶。

 夜通しドライ運転させていたクーラーを数日前から切って寝ている。朝の出勤時に夫と「涼しくなった」と言い合う。夏は、とっくに折り返しに入っているのだ。