すぐに気付いたよ、

 半年ぶりかな、弟からの電話。
 父の三回忌の日取りを決めたから、と。
「それから」
 そうそう他にもあるだろう、あのことが。
「俺、5月に携帯を水没させちゃって機種変更したらデータを引き継げなくて」
「そうだと思ってたよ」
 ラインのトークリストに突然『メンバーがいません』が表示されたのだった。一瞬あ然となった。夫に冗談めかして「弟にラインを切られた」と言ったが、内心ショックだった。
 あれれ私なにか弟を怒らせることやったっけ?? いやいやこれはあれだきっとうん。
 昨年別の人と同じ状況を経験していたのと、義妹とのラインはそのままだったので深く考えるのをやめた。普段から頻繁に連絡をとりあう姉弟ではないし、ね。
「えっとオトモダチになるの、どうすればいいんだっけ?」
「俺のID簡単だから検索して」
 そう言って、あだ名と4桁の数字を口にした。
「あ、この数字!」
「やっぱり、姉ちゃんは分かるか。俺の周りの知り合いはこの数字を見ると”何の数字?”って訊くけどな」
 それは、もう20年近く前に亡くなった、弟の娘の誕生日と命日だった。
 弟夫婦が不妊治療までして待ち望んで生まれてきた姪は、超早産で、月初めに生まれ、その月末に亡くなってしまった。私には子どもがいないから、弟夫婦の気持ちに真に寄り添うことは出来ないが、せめてこの姪のことを忘れずにいようと思った、ひと月もこの世に居られなかった姪のことを。
 それから数年経って、弟夫婦は娘を得、今は穏やかに暮らしている。
「いい数字を使ってるね」
「うん、銀行の暗証番号とか全部これ」
「じゃ私は今日、重大な秘密を握ったねぇ。あ絶対に悪用しないからっ」
 三回忌の詳細はまたね、と電話を切った。
 切った後しばらく4桁の数字の余韻を感じていた。それは、寂しさが混じりながらも、年月が経った今となってはほの暖かいものだった。