成功率70%ということは、30%の確率で死ぬということ

 近頃日常が変化してきた。子供の頃から、見なくてもBGMよろしく点けていたTVを消す。不思議だ。PCに向かう時間も激減した。…更新さぼりの言い訳(^^;

 3日前とても悲しいことがあった。セキセイインコが亡くなってしまった。

 うちには、迷子で保護され、飼い主が見つからず引き取ったインコが4羽いた。
 ルイと名付けた雌のインコの、少し前から下腹がふくれだした。卵が産めずつかえている様子。本人(鳥)は至って元気だが、夫や私からは苦し気に見え、動物病院へ連れて行った。
 診断はヘルニア。ふくれた下腹に卵管や腸が入り込んで下がっている様子が、後日の造影検査でも見て取れた。
 ふくらみが今後萎むことは考えられない。徐々に垂れさがりが大きくなるだろう。こういった状態のまま長生き出来た事例はあるが、ある日フンが出なくなったり、ふくらみが擦れてお腹の皮が破れ腸が出てしまう可能性がある。
 手術でふくらみを取り、腸や卵管を元の位置へ戻すという治療法があるが、ルイはうちへ来て6年、少なくとも7歳以上の高齢ゆえ、全身麻酔で目が覚めなかったり、術後不良で衰弱死の可能性もあり、術後1ヵ月の生存率は70パーセント。
 またインコは卵巣と腎臓がくっついた構造だから、手術で卵管は結べても、卵巣は除去出来ず、1年後に同じ病状に陥る可能性もあるという。
 さあどうする。
 手術は高リスク。けれど、このままでも明日にも悪化して衰弱死を迎えるかもしれない。夫も私も手術を望んだ。

 手術日時は私が電話で予約した。受話器を置いた途端、私は、ルイの余命のカウントダウンスイッチを勝手に作動させた気がした。
「ねえアナタはこれが自分だったら、成功率70パーセントの手術を受ける?」
「ああ。受けなくても長生きできる保証がないなら、元気になれる可能性に掛ける」
「そっか…私は、自分だったら、もう高齢だから何もしなくてもいいかなって思うの」
「…もしルイが明日具合が急変したら、俺達は何もしてやらなかったことを後悔するよ、直してやれたかもしれないのにって。手術を選んだことは間違ってないと思う」

 当日は朝9時半に預けて注射などの実前処置、午後から手術。16時頃に終了報告の電話を頂き、そのまま数日入院・・・というスケジュールだった。
 そして15:40、電話に出ると、院長先生の声だったので、ああこれは駄目だったのだと思った。上手くいっていれば、電話は若い女性スタッフが軽やかに「無事終わりました~」と下さっただろう。
 先生によるとルイは、全身麻酔をかけた途端そのまま呼吸停止、心停止に陥り、2分後には亡くなってしまったそうだ。
「そうですか・・・やはり高齢で麻酔のリスクが高かったのですね、覚悟はしていましたが・・・」
 30分後、夫と二人で引き取りに行った。ルイは紙箱の棺に納められ、顔の両側にピンクの小ぶりなガーベラを添えて貰い、静かに眠っていた。
 朝、出掛ける前に、鳥籠の中で首をかしげるようなしぐさをしていたルイを思い出した。その時、これが最期かもという思いが浮かびかけたのを打ち消し、考えないようにした。元気で帰ってくる、お腹ぺったんこの美ボディになって戻ってくるんだと。
「覚悟はしていました」などと格好いい事を私は先生に言ったが、覚悟なんてしていなかったのだと、瞼を開けないルイの顔を見つめ、思い知らされた。覚悟なんて出来ていなかった、可能性を知っていただけだ。

 これまで私は、引き取った動物を大切に可愛がったとは言い難い。最低限かそれにも満たないくらいの世話しかしていない。関わりは薄かったと言えるだろう。けれど、ルイの命が消えたことに打ちのめされている。餌の入れ替えの度に、これまで4つだったのが3つであることに驚いてしまうのだ。