いきものじかん #5 それぞれが抱く歴史

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「あ、うちのペットが兎と亀になる!日本昔話やんっ」

 うさぎを引き取る時に夫が言ったセリフです。

 先に亀、続いて迎えたうさぎ。さてどこを撫でてあげれば喜ぶのかもわからない。恐る恐る触れたその体毛が柔らかくて驚きました。

 臆病な生き物だという先入観は初日にして吹っ飛びました。物怖じしません。個体差もあるでしょうが、警察署で過ごした2か月間、とても可愛がられたことが伺えました。屋内ガレージの片隅にケージが置かれていたそうです。動物嫌いの職員が構うことは無い。ケージに手を伸ばして触れるのは動物好きだけ。だから、人は優しいもの、手は良いものと思っているようでした。この子を捨てたのも人なのに。

 信頼を湛えた静かな黒い瞳を見るうちに私はつい語り掛けていました。

「あなたのおとうさんとおかあさんは何色のどんなうさぎさんなの? どこで生まれたの? きょうだいはいたの?」

 ペットショップで買ったならこんな事を思わなかったかもしれませんが、私はこの子の生い立ちが気になって仕方がなかったのです。

 生後間もなく箱に入れて公園に置かれたうさぎ。気がつけばひとり箱の中にいて何を思っていたのだろう。どのくらいの時間そうしていたのか。不安だったかな。それともただ箱の上空をそよそよ撫でていく風の匂いを味わっていたのかも。

 なぜか私は繰り返し繰り返し、うさぎが箱の底から四角い青空を見上げる情景を想像してしまいました。するとそのうち物語も浮かんできました。

・・・箱の中でうさぎはちっとも怖くありませんでした。なぜなら神様がこう言ったのです。「この紙のボートに乗っていなさい、きっといいことがあるよ」 だからうさぎはいい子にして待っていました・・・

 なぜこんな事を思ったのかはさっぱり分かりません。

 

 うさぎの2週間後に燕が来た時にも私は来歴にあれこれ思い巡らせました。どこの巣で生まれ、どのように人に飼育され、どんないきさつで迷子になってしまったのか。この燕の世話をしていたのは、やはり時間に余裕のある主婦だろうか。燕の寿命ってどれくらいなのかな。

 こんなふうに考えずにはいられなかった疑問を吹っ切らせてくれたのが、次に迎えたインコでした。これまでは亀も兎も燕も一応ベビーでしたから年齢を数えることが出来ましたが、今度は年すら分からないのです。

 それぞれ生涯の続きを預かる上で、私は余命を計算しようとしていたのですが、現時点で若いのか老年か。若くても早逝するかもしれないし、既にご長寿さんかもしれない。そもそも寿命を考えるなんてナンセンス。諦めざるを得ませんでした。

 迷子として届けられ、飼い主の見つからぬまま数週間を警察署で過ごし、我が家にやってきたのは、水色のインコ。鼻がガサガサと赤く荒れ、時々クシャミをする。まだ寒い3月でしたから風邪気味だったかもしれません。しわがれた老婆を思わせる貫禄を感じましたが、はてさて。