真夜中のミステリ、凸凹夫婦

 真夜中に手の甲をさすられていた。左手の甲を隣で寝ている夫がさすっている。
 なんでだろう。腫れているからか。関節炎を持つ私の手首を夫はこれまでにもさすってくれたことがあるが、今は炎症がそれほど酷くないしなぁ。
 ああ。かさつきを確かめているんだ。気が済んだのか夫が手を引いた。
 桜が開く直前の、寒の戻りの頃に私の手荒れは最高潮を迎えていた。指先のあかぎれに加え、手の甲がサメ肌を通り越してカサブタアスファルトみたいになっていて、慣れっこの私自身もさすがにこれは酷いと思った。それでも水仕事の合間にハンドクリームを塗るのは面倒で、もう数日のことだ、気温が上がれば治るだろうとタカを括っていたら、何かの拍子に夫が私の手の甲に触れ、驚いてざらつき具合を確認していた。
 翌日、帰宅した夫が鞄からドラッグストアの袋を出した。「今すぐこれを塗りなさい」これは効く筈だから、売り場で一番効きそうなハンドクリームだからと、ピカピカした顔で言った。高そうで怖くて値段が訊けなかった。「毎日使いなさい」
 それから数日たつ。効果の程を、私がちゃんと使っているかを、夫は調べたのだ。
 外部刺激から保護し、薬効成分が角質層深く浸透するエクストラプロテクション。夫はこのハンドクリームみたいな人だ。そして私は。実は夫より先に自分で100均のハンドクリームを買っていた。一応、ローズエキス&シアバター配合なんだけどな。