小学2年女子的、アポロ(雌、推定7歳

 アポロのしっとりとした情緒には日々感心してしまう。
 例えば、私が台所の流しへ立つと背後に気配がする。台所入ってすぐのところにアポロは座っている。あるいは食器棚の角に体を擦りながらくねくねしている。気が付いて声をかけてくれるのを待っている。私が振り返り、目を合わせ、「お魚(ウェットのフードを一口)欲しいの?」と聞くと、ようやくにゃ~んと返事する。
 野良だったアポロはどうも引っ込み思案で遠慮がちなところがある。もじもじする姿を見ていると、私は自分の子供の頃を思い出す。私もそういう子だった。頂戴が言えない。アポロには小学2年生くらいの女の子を感じる。
 6年前に庭で見かけるようになったアポロは地域猫だ。ボランティアの保護の下、避妊手術を受け、その印として片耳にV字の切込みが入る。この野良は繁殖しない一代限りの命だから、給餌や存在を大目に見てと。この際の恐怖で心の傷も負ったのだろう、物凄く警戒心が強い。猫好きの私が餌皿を庭先へ出しても、初めは口を付けなかった。そこから、家の中で餌を食べるようになり、数時間休んでいくようになり、撫でられるようになり、家の中でいることの方が多くなり、夫のあぐらに乗るようになり、夜私たちの布団の上で眠るようになり……ゆっくりと家族になってきたのだった。それでも、未だに宅配業者が来たりすると、身構え、庭から外へ脱出する。
 最近、驚くべき行動をとった。台所へやってきたアポロに、私が気が付かない(気付かないフリも含む)でいると、そのまま居間へ戻り、座っている夫の膝をそっと前足でとんと叩くか、遠慮がちににゃ~と鳴くのだ。始め、夫は分らなかったが、私はピンときて笑ってしまった。
 これは、夫にとりなしを頼んでいるのだ。お魚をくれるように、お父さんからお母さんに言ってよう、と。
 これまでは、夫の膝で甘えるアポロに、夫が「アポロ、行ってみ、お母さんにお魚頂戴ってちゃんと言うんだよ」と促されて、台所の私のもとへやってきて、意を決したようににゃ~んと鳴く。または、ご褒美的タイミングで夫が「アポロにお魚あげて」「アポロ、お母さんからお魚貰っといで」とか「アポロ、お魚頂戴って行ってみ」、それを受けて私が「おいでアポロ、お魚食べよか、お父さんが食べていいよって」と台所へ、しっぽをぴんと立てたアポロを伴う。
 それが、だ。オカンときたら鈍くて察してくれない、オカンが駄目ならお父さんに頼むのだ。頭良すぎないか、アポロ。進化はまだまだ続く。