願い

「これをしちゃ駄目」と言ったことをことごとく実行する…とある認知症の方の事が書かれていた。駄目と注意されるとその事に意識が向く。向いても、通常ならそれを我慢するが、自制心が弱いのが子どもと認知症
 禁止より肯定で。分かってて出来ないから余計に自己嫌悪が募る。生前の父に私はガミガミ言った。言わずにはいられなかった。自分の親だもの。しっかりしてよどうしちゃったのピカピカしてたお父さんはどこにいったのよ!目の前で分からない行動をする父を容認できなかった。
 それに人格まで変わってしまうあれは何だろう。一番酷かったのは、父が「誰か人を殺して、お前の人生まで滅茶苦茶にしてやるからな」と言った時だ。父は足を骨折して入院中で、痛みや手術、環境が変わった事によるショックとストレスで攻撃的になっていた。とはいえ、付き添いの娘にそこまで言えるものだろうか。
 泥酔や認知症によって現れる人格は、本来その人が持っていた内面なのか、それとも全く別人になっているのか。どうか後者であって欲しい。
 大好きだからこそ、その人格が壊れるように感じると、こちらまで壊れそうで怖くてたまらなくなる。黙って微笑んであげるには、少しでいい、距離をとらなくては耐えられないもの。
 施設で父は、ここ数年落ち着いて暮らしていた。寄り添って暮らさなかった私は親不孝だが、亡くなる6日前に訪ねた時、父のベッドに並んで腰かけ、和やかに話し、にこやかに手を振って別れることが出来た。
 友人のお母様が認知症で施設にいたのを、病気で入院し、退所せねばならなくなった。次の施設を探して友人はあたふたしている。そんなメールが届いた。私の父も、亡くなった日、本当なら病院へ行く予定だった。検査して入院して、きっと同じことになっていた筈だ。朝からずっと考えてしまっている。どうか良い道が開けますように。

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