月、満ちて

 午前6時過ぎ、出勤支度を整えた夫が「今朝は寒いなあ」と身をすくめた。まだ暗さの残る空には雲一つない。
放射冷却が起こったんだね、よく晴れてる」
 地表の熱が上空へどんどんと拡散していったのだ。宇宙なのだなぁと、つくづく見上げる。青からピンクへとグラデーションを創る東の空は本当に綺麗だ。
 先週から上着は厚いものにしていたが、「ズボンも冬物にしなくちゃ」と言って夫は駅へ向かった。
 見送って振り返ると、西の空の低い所にぽっかり丸い月があった。そういえば昨夜は満月になると夫が言っていたっけ。あっけらかんとした存在感が書き割りみたいに不自然だけど、これは確かな真実で、圧倒されてしまった。もうじき山に沈む。なんとなくそわそわとなり、スマホの写真アプリを起こして月に向けた。ところが画面の中の月は画鋲より小さい。あまりに肉眼で見てる月と違うからびっくりして見比べてしまう。どうする?撮る?…迷った挙句に、出来るだけズームしてシャッターを押した。だってこの月は、父の門出を飾ってくれた満月だもの。
 昨日、弟の自宅で父の四十九日法要が行われた。これを境に父は彼岸の住人となるのだと和尚様から教わった。黒々と光る真新しいお位牌が、遺影の照れ笑いに似合っていた。おめでとう、お父さん。ようやく、今ここで言わせて、ありがとう。