猫の額の小宇宙

 団地で育ち、社宅に移り住んだから、一軒家で暮らすのは今の家が初めてだ。どうしていいやら分からないまま数年たち、荒らしてしまったお庭にようやく手を入れ始めた。

 まずは伸び放題の枝を切った。小さな中古住宅のごく狭い庭だが、前に住んでいたご主人はお庭をとても大事にしておられて、面積の割には庭木が多く、くたくたになった。

 気を取り直して、次に下草を。雑草天国になっていた。木と違い、伸びるスピードが速い。刈っても、雨上がりにはわんと伸びるから、少しサボっては途方に暮れるを繰り返している。近頃は雨が降る度に『ああまた雑草が…』としか考えない。この度の台風でも考えたのはこの事だった。とはいえ憂鬱なばかりではない。これからどんな風にお庭を造っていこうかしらと楽しみになっている。

 ところで、雑草を抜いていてある事に気付いた。種の勢力とでも言おうか。例えば、たんぽぽのような草が茂っているのを引っこ抜くと、次にケシのような草が群生する。それを処理すると、今度は違うタイプの草が広がる。こんなふうに、ある種を駆逐すると別の種が進出してくるのだ。生物の生存戦略などというと大仰に響いてしまうけれど、思わずにはいられない。

 猫の額ほどのお庭で、先週から聞こえ始めた虫の声を聞き、もうすぐ色づくだろう柿の実を数え、その向こうに見える海を眺める。

 祝日の今日、台風一過の空は澄んだ秋晴れである。さぁ雑草抜こう!