どうしたの食べなさいよ

 ゆで卵とマヨネーズの相性が好きだ。タルタルソースはもう掛ける主役なんか要らない、それだけで良くて、それだけを食べたくて、止まらなくなってしまうから、むしろ作らない。だから夫は私がこんなにもタルタル好きだとは思っていないだろう。
 ゆで卵を入れたポテトサラダも好きで、こちらは恋しくなると作る。

 昨日作りながら、思い出した。
 父は、手先が器用で手早いから、父子家庭の主夫になる前から料理は得意。夜食の時間になって「巻きずしが食べたいなぁ」と言い出し、お米を2合ざっこざっこ研いで鍋で炊き、その間に寿司酢を調合し、沢庵を刻み、巻き簾を出し、海苔をあぶってスタンバイ。炊き上がったら手際よく巻いて、濡れ布巾で包丁を整えながら切り、皿に盛ってゆく。
「ようし出来たぞさあ食え」
 小学生だった私は、ダイエットなんて考えないから「わーい」と手を伸ばし、一つまた一つと頬張る。
 ところがだ。肝心の、言い出しっぺの父の食が進んでいない。
「なんで?食べたかったんでしょ??」
「う~ん、不思議なもんでなぁ、匂いで腹がふくれるというか、気が済むというか、もうそんなに食べたいと思わんのや」
 皿には巻き寿司がたっぷりあって、子どもに譲るというのでもない。
「ふ~ん、…なんでかなぁ、こんなにおいしいのに」

 ゆで卵のポテトサラダを作って、実は私もあんまり食べないのだ。夕食のテーブルに並べ、ひと口ふた口箸で掬い、あとは夫が食べるに任せる。
 なんだろうねこれは。食べたくて作って、作ったらもう執着が消えたというか。
 うちの親子だけ? 他にもこんなひと居るのかな?