気付けば同じことを

 時々自分の振舞いが父に似ていることに気付いて苦笑いすることがある。

 2歳年下の弟とは仲が悪くて思春期頃には口も利かないくらいだった。それが大人になると憑き物が落ちたみたいにわだかまりが消えて、しかし照れくさいから言葉少なな付き合いである。だから、何年か前にひょんなことから弟のブログを見つけた時、言い出せなかった。以来時々アクセスし、弟の”いいお父さんぶり”を垣間見ている。

 今朝の記事では、弟が職場の同僚と釣りに行き、持ち帰った魚を自分で捌いたと、テーブルの上の、大皿に美しく盛り付けられた刺身の写真がアップされていた。

 私は大皿の奥に写るグラスに釘付けになった。小ぶりのブルーの切子グラス。グラスの傍には缶ビールがあるから、弟はビールを切子グラスで飲むのだろう。

 実は亡くなった父も小ぶりの切子グラスでビールを飲んでいた。弟のグラスは父のそれとそっくりなのだ。

 弟は結婚して暫くの間「朝ご飯はお茶漬けがいい」と言ったと、最近になって義妹に聞いた。それは父の流儀だった。父の朝ご飯はお茶漬け2杯と決まっていた。子どもだった私も弟も当然同じものを食した。

 冷やご飯をわざわざ用意する。炊き立てしかない時は冷まして冷やご飯にする。そこに玄米茶をかけ、自分でつけた漬物でさらさらと。これが楽しみで父はせっせと漬物を付けた。白菜、水菜や広島菜を塩漬けし、糠床にキュウリやナスを埋め、沢庵も漬けた。冬にスーパーの店先で蕪を見つけると顔をほころばせて、薄くスライスし、刻み昆布、鷹の爪、合わせ酢で千枚漬けを作った。赤蕪やひの菜、すぐき等既製品しか手に入らないものだけは購入した。

 家を出てからの私はお茶漬けを食べなくなったが、そうか弟は…と義妹の話に驚いたのだった。今ではパンを食べたりと、家族に合せて朝食のバリエーションを広げているようだが。

 切子グラス、お茶漬け。弟は私の思いもよらないものを受け継いでいた。懐かしむとかではなく沁みついたものとして。私にはどんな父が息づいているのだろうか。