おかあさんはわたしのことがすき?

 「むずかしい子やねぇ」とは我が家の雌猫、アポロへ向けられる言葉だ。

 野良出身で、警戒心が強く、遠慮があって、おやつをちょうだいが言えない、そのくせ甘えん坊でもじもじくねくねにゃぁ~ん、構って貰えないと外へ出てしまう。

 アポロを見ていると、小学生の頃の自分みたいだ。むずかしい子だとよく言われた。

 夫とTVを見ていたらアイスケーキが出て来て、私は苦笑いを浮かべて話し出した。
 あれは5歳の夏、弟の誕生日に母が発泡スチロールの箱を提げて帰ってきた。それを流しに置いて蓋を開けると、中からほわ~っとドライアイスの煙が流れ出し、それが落ち着くと、デコレーションケーキが見えた。これは何だと問うと、アイスクリームで出来たケーキだと母が答えた。途端に私は泣き叫んだ、地団太を踏んで。
「ずるいようっ、私の誕生日にはこんなの買ってくれなかったのにぃ~~~」

 そこで夫が遮った。
「ちょっと待って、そのケーキ、切り分けて一緒に食べられるんだろ?」
「そうだけど、そういうことじゃないの。子供の頃、私はアイスクリームがこの世で一番好きな食べ物だったの。その私の誕生日には、クリスマスが近いからって兼用のバタークリームのケーキしか買ってくれたことがないのに、弟の為のケーキがアイスクリームなんだよ、私、その時までアイスクリームのケーキがあるなんて知らなかったんだから」
「う~ん、むずかしいなぁ」
と、今度は夫が苦笑い。

 ただ僻みっぽい子だったということなのだけれど。2歳年下の弟が生まれると、周りの目も手もどうしても弟に注がれていく。おかあさんはわたしよりおとうとのほうがだいじなのかな。他の人はともかく母にだけは。

 アポロが時に私の目を強い眼差しで見つめることがあって、ハッとする。そんな時は、オカンはアポロが可愛いですよ大事ですよと見つめ返す。