機嫌のいい時にだけ

 歩いて15分弱のところに大きな公園がある。広い芝生の広場と遊歩道、遊具があり、幼児を連れた家族や、ランニング・ウォーキングする中高年で、晴れた週末ともなれば賑やかだ。

 夫もよく休みの朝にトレーニングに出掛ける。往きはひとり歩いて公園まで、帰りは私がスクーターで迎えに行く。

 公園では大小さまざまなお散歩ワンコを見かけるのだが、その中に時々「バウ、バウ、バウ」と吼えるコーギーがいる。

 街中での飼い犬のマナーとして、日本ではフンの始末のほうが問題視されるが、欧米では無駄吠えが非常に嫌われるらしい。

 コーギーの吼え声は低く太く、私はあまりいい気がしなかったが、何度も見かけるうちに気付いた事がある。

 そのコーギーは初老のおじさんに連れられて現れる。毛並みは少しもさついて、もう若くないらしい、のそのそゆっくりな足取りで芝生を横切ってゆく。全く鳴かず至っておとなしいワンコである。

 ところが、顔見知りのワンコや飼い主さんに出会うと、「バウッ、バウッ」と鳴き出すのだ。

 てっきり怒って鳴いていると思っていたら、さにあらず、尻尾をちりちりと愛想よく振っている。明らかに喜んでいる。どうやらこのコは嬉しい時にだけ鳴くのだ。

 それが分かった途端、吼え声が愛しく微笑ましいものになった。

 怒りや悲しみでなく、機嫌のいい時にだけ声を高くする。中々真似できないな。