手塩にかけて愛すればこそ

 ジンクスって本来は不吉なものだけに使う言葉だって。ゲン担ぎと一緒にしてた。
 コープのチラシに漬け梅が載り始める時期になった。
「梅干し作りを失敗すると縁起が悪い、って昔から言うんや。やめとけ」
 結婚して間もない頃に挑戦しようとした私に、父が待ったをかけた。
「お父さんは漬けてるじゃない。失敗したらどうなるの、何が起こるの?」
「昔からそう言うんや、お前はやめといてくれ、お父さん心配や」
 父にもはっきり答えられないくせに余りに怖がるものだから、私は敬遠してきた。
 そんなふうに私を庇ってくれた父も昨秋他界した。手がかぶれるからと父に禁じられていた里芋の皮むきをこのお正月解禁にしたことだし、今年辺りどうだろう。
 梅漬けの失敗は主にカビが生じることだが、そもそも滅多な事では失敗しないらしい。梅自体に抗菌効果がある上、塩の滅菌作用が働く。
 それでもカビるというのは余程運が悪いということになるのか。因果関係は不明だが、失敗した後火事になったとか相次いで両親が他界したという話はある。う~ん。
 更に調べるうち、真逆の説が出てきた! 
 梅漬けを失敗したから家庭内で良くない事が起こったのではなく、体調不良や家庭の問題があって梅漬けを失敗した、というもの。
 梅干は、下漬けから土用干しまで様々な工程をふむ。そのどこかで手順が滞るとカビ生えたりする。”手塩にかける”という言葉は、手間ひま掛かる梅干作りが語源。
 作業に携わるひと月以上の間を体の”塩梅”に気をつけて過ごしなさいというのが言い伝えに込められた本当の意味だったようだ。

 f:id:wabisuketubaki:20180507162041p:plain お父さん、安心した?