ヨキカタワレデアリタイ

 週末は快晴だった。いつものようにスクーターに二人乗りで出掛け、回転寿司でお昼を食べて、帰りは上り坂、連なる六甲の山並みを夫が仰ぐ。
「ええ天気やな」「うん」
「新緑がきれいやなぁ」「ほんと」
「ほんまにええ天気やなぁ」「うん」
 夫の感動に対し、私のはうわつらな返事だったと、二日も経って雨音を聞きながら思い返した。だってあの時私は共に過ごす休日ののどかさにぼーっとなってたから。

 ようやく気付けるほどに細い月を駅前のロータリーで見上げた。住宅街に新設された小さな駅だ。そこからホームが見える。電光掲示板の点滅も、夫を乗せた電車も。
 私がスクーターのシートの下から夫のヘルメットと手袋を取り出すうちに、夫は傍までくる。可笑しいと自分でも思うけれど私は未だに照れくさい。夫の「ただいま」に「おかえり」と返しながら下へ逸らした私の目を、おとといの夜の夫は、覗き込み、もう一度「ただいま」と言う。だから私ももう一度「おかえり」。
 鞄をシート下に納め、ヘルメットを手に夫がこんなことを言いだした。
「朝出て夜帰ってくるだけでもこんなにほっとするのに、ペンギンの夫婦は嬉しいやろうなぁ」
 交代で片方が遠い海へ餌を食べに行き、もう片方は雛を守りながら待つ。その間数か月。再会時には向かい合い、喉を反らせて高らかに鳴き合う。いつかのTVで見た。
 それを引き合いに出され、また照れくさくて私は話の向きを変えた。
「帰れなくなったペンギンの片割れ、可哀想だったね」
 言うそばから泣けてきた。
 海でシャチに襲われ、怪我を負い、帰る途中で力尽きたペンギンがいたのだ。その片割れは何も知らず待ち続け、子共々餓死することになる。
 夫が倒れれば妻も。悲し過ぎる運命だが、共に生きる夫婦の潔さ、というようなことを、家へと走り出したスクーターの夫の背中で思っていた。

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