これもものづくりの素晴らしさかと

 思いがけず、20年以上前に自分の親が手掛けた仕事に辿り着けるなんて素敵だよね。
 掘込みガレージのシャッターが壊れた。調子悪かったのが開かなくなった。この家に暮らして8年になる。前の住人から頂いた設備類取説類ファイルにシャッターの領収証が残っていた。平成6年取り付けだから経年劣化も当然だ。
 ネットで申し込んで業者さんに見に来て貰ったら、シャッター幅が規格品より少し広く、巻き取りのシャフトを特注せねばならないという。かつては幅に合わせて作ったシャッターも、今では既製品を当てはめるらしい。頭に相当痛い見積もりを貼り付けたまま、生活の足のスクーターを封じられ、丸々3週間、修理日の待ち遠しかったこと。
 見積もり時と違う職人さんが2人来られた。私は家の中にいればよかったが、余り無関心ぽいのも失礼かと、古いシャフトを取り外した頃に外へ出た。タバコを加えた30代くらいの、けれど貫禄があって、いなせな感じのお兄さんが、外した3メートル超のシャフトを指しながら、
「これ、たぶん俺の親父が作ったもんですわ」と言った。
 驚いた。古い領収書に記載された社名は、そのお父様の仕事仲間だった。受けた仕事の部品注文をお父様へ依頼し、取り付けも行った筈だと。
 しかし我が家が呼んだのは全く別の会社なのに、こんな偶然があるのか。
「そうですね、偶然です。偶然といえば偶然だけど、市内で今、この幅の特注シャフトを作れる職人はウチだけだから、結局はウチに注文が来ることになる」
 そう言って、暮れ始めた空へ紫煙を吐いた職人さんの背後には、黒く艶やかなシャフトが控えていた。今度は息子さんの作ったシャフトにお世話になるのだ。
 工事が済み、引き上げる職人さんに、お父様へのお礼を言付けてお見送りした。