ヴィンテージ

 ネットフリマに出そうと、台所の上段戸棚に仕舞い込んだ箱入りの食器を取り出した。夫と結婚してから引き出物や内祝いに頂いた、ノリタケ、ナルミ、たち吉、香蘭社、等々。いずれも箱の中で時間をとめていた食器達だから輝きは健在だが、箱の外側は焼けやシミで変色してしまっている。子どももいないまま変わらずに来たつもりの私たち夫婦にも20年の歴史があることを思い知らされる。
 品物の説明を書く為に検索しようと、PCの傍に色褪せた箱をひとつひとつと積み上げていて、ふと手が止まる。ウェッジウッドのブルーの箱に巻かれた熨斗紙には高校の同級生7人の名前が連名で書かれている。結婚祝いに贈られたものだった。中身はウェッジウッドの定番中の定番、ワイルドストロベリーのペアマグカップ。とっくに廃版になっている。もう一つ、結婚祝いが残してあった。大学時代に家庭教師をした時の教え子ちゃんからの贈り物の、ノリタケのペアカップ&ソーサー。こちらも廃版の品。ネットオークションでプレミアものとして扱われたサイトもあった。となると、私の持つ、箱入り新品未使用の価値は…。
 値が付けられなくなった。正直なところ頭の中で欲も湧くし、愛着も立ち昇ってきて。20年余りの結婚生活が年代物のワインのように静かにそこにある。
 結婚する時、私はこんなに長続きすると思っていなかった。だから私は結婚指輪を作らなかった。とっくに愛想を尽かされている筈だったのに気が付けば銀婚式も視野に入っている。
 私達の始まりを祝福してくれた二つの箱は再び戸棚に収めた。