忘れないで待ってるよ

 匂い、嗅覚の記憶が五感の中で最も強いと聞いた事があるが、触れあいや温もりの記憶も負けていないんじゃないかな。触覚ということではなく、通わせた心の記憶。
 生後1か月半ほどの子猫と過ごしたのはちょうど1年前だったなと、近頃懐かしんでいる。わずか2週間だったがみっちり一緒で、トイレにまで付いてきた。部屋の中では、座る私の太ももの上でくうと眠る。
 グレーがかった黒で少し長毛気味の野良猫の子だった。保護したものの先住猫と折り合いが悪く、私は急いで里親さんを探した。手放すのだから名前を付けない方がと思いながらも、面と向かって呼びかける術として、…”ももぞう”になった。
 先住の臆病で引っ込み思案なアポロと違い、ちびのくせに堂々と我が物顔。目が離せず、手がかかり、買い物にも出かけられずにへとへとになった。育児ノイローゼになるママの気持ちが分かる気がした。
 なのに、運よく里親さんを見つけて引き渡したら、ほっとするよりも喪失感に圧倒された。ももぞうは無邪気に、一度も振り返らずに行っちゃった。それが12月の始め。
 恨めしく想いながら3週間ほど経った頃、訃報が届いた。家具の下敷きになって亡くなったのだが、獣医さんによれば、お腹に水が溜まる病気だった疑いも判明。もしそうなら1歳まで生きられなかっただろうから、どのみち短命な運命だったようだ。
 ならば何のために生まれてきたのか。不憫でしばらく心がふさいだ。そしてある時ふと、ももぞうにサヨナラを言った。生まれ変わって帰っておいで、と。今はただただ懐かしい。待ち遠しい。f:id:wabisuketubaki:20171118195158p:plain