キャッチボール

 昨日の件。帰宅した夫に開口一番謝ると「なんだそんなこと。それよりもさ…」と会社での出来事を語りだした。専業主婦たる自分の世界の狭さを実感。いえそれが有り難い。一日私を押し潰していた事なんか塵のように吹っ飛ぶ。夕食後に一緒に食べた苺大福の美味しかったこと。
 今日はぐんと冷えた。買い物帰り、セーターの袖に手を引っ込めながら坂を上っていると、犬の散歩の親子連れとすれ違った。40代の父と小学生男子と柴犬。父親の穏やかな声が耳に入ってきた。
「…ってお母さんが言ったのにお前は聞かなかったろ、あれはそりゃあお前、お母さん怒るよ。言う事ちゃんと聞かないと…」
 いいな、と思った。家で面と向かって言えないようなことをさりげなく話し合える、お父さんと子ども二人きりの時間。こういう時間を子どもが大人になるまでずっと持ち続けられたらいいだろうな。私にもし子どもがいたら「大人になるまで犬の散歩は毎日必ずお父さんと行くこと」と決めておくのはどうだろう。いや無理無理、子どもが中学生になれば部活だ受験だと難しくなるだろうな。父親だって残業もあるだろうし。
 近頃録画した米ドラマ『ER』を見ている。その主要キャラ、働き盛りのグリーン医師の娘への言葉に私はシビれた。思春期の娘は、門限など親との約束を破り、それを咎められるとプイと自室へ籠る。不良っぽい友達と付き合っていて、タバコやドラッグへの関与も疑われる状況で、親としては気がかりでならない。度々ぶつかる。しかしグリーン先生は娘に真っ直ぐに「愛しているから口出しをする」と説く。ある時並んで歩きながら父は諭す。お互いに努力し、尊重し合える親子関係を築こう。それならばと、娘が言う。
「子ども扱いしないで」
 これに私ならどう答えるだろうと子どももいないのに考えてしまったのは、グリーン先生の返しがあまりにチャーミングに思えたから。父親の言葉に娘は思わず笑いだしてしまうのだ。
「いいよ。年寄り扱いしないで」f:id:wabisuketubaki:20171116190750p:plain