刻まれた遺産

 猫だけでなく我が家にはウサギとインコとカメがいる。ウサギやインコに接していて時々苦笑いしてしまう。例えば、うさぎを部屋へ放して遊ばせる時に「うりゃうりゃうりゃ…」などと言いながら追いかけっこしたり、インコを手の中に包んで撫でている途中にインコの背中に唇を当てて「ゔゔ~~~こりゃかわいいちゃん、ゔゔ~~~~」と低く響かせるように息を吹きかけたり。こういうのは、丸っきり父のやり方だ。別に真似るつもりもないし、どちらかといえば真似たくはないのに、つい出てしまう。
 父は生き物好きだった。団地暮らしで大好きな犬は諦めざるを得なかったが、代わりに常に文鳥を飼っていたから、私はずっと父の生き物との関わり方を見て育った。それが出てしまうのだ。
 小さな子どもをあやす時のしぐさなんかも同じ。親に似るというのは、生物学的な事だけではないのだとつくづく思い知らされる。
 数年前から、こういうことも感じていた。台所の流しに立って、コーヒーカップにお湯を注いでいる時、目の前の自分の手の所作が、父のそれとオーバーラップしてハッとなる。手の形なんか私は母親似で、父とは全く違う。なのに、まるで父が私の体に乗り移ってコーヒーを淹れているような感覚の中で、自分の手の動きを見つめる。幼い頃から見ていた、流しに立つ父の背中がはっきりと浮かぶ。パジャマの上に冬は臙脂のチェックのガウンを着ていた。寒がりで分厚い靴下をだぶつかせた足元も。
f:id:wabisuketubaki:20171113113351p:plain 冷えが強まってきた。部屋履きの靴下を厚いのにしよう。