ダメもとで背伸び、してみようか

 憧れだ。花や木の名前を知っているひと。お料理の上手さ。丁寧に洗濯をするひと。ほのかな好い匂いをさせること。アイロンがけが得意なひと。動物に好かれること。それから、…ああキリがない幾らでもある。どれも少し頑張れば手が届きそうに見えるけれど、頑張らずじまいの自分にため息をついたり、実のところそれらは私には決定的に欠けているセンスなんじゃないかと絶望したり。
 美味しいお茶を淹れられるようになりたいなぁ。味だけでなく、タイミングも。
 休みの午後に夫にミルクティを作っていて思い出した、先月の父の葬儀の時の事。
 お通夜まで間があって親族控室でぼんやり座っていたら、緑茶の入った湯飲み茶碗が差し出された。弟の奥さんが配ってくれていた。うわぁすみません、と手に取って、ひと口、温かい煎茶を喉からお腹へ落とした時、はっとした。私、今お茶が飲みたかったんだと、飲んで初めて気が付いたのだ。これも気が付かないうちに詰めていた息をふう~っと吐き出させてくれた。
 弟は幸せなんだなと思った。絶妙の頃合いでお茶が出てくるなんて。すごいひとだね、と後で弟に耳打ちせずにはいられなかった。