本当はおばちゃんも人見知りなんだよ

 子どもの不器用さ、とでもいおうか。
 ずっしりと重い買い物袋を肩にバスを降りて、自宅へと歩き始めると、後ろから私の脇を小学1,2年生くらいの男の子が駆けてゆく。その背中は順当に遠ざかる筈だったのに、私を追い越したところで、何かにハッとしたように振り返った。私を見た。ああこの子はうろ覚えだが斜向かいのボク。向こうの顔にも”あ、向かいのおばちゃん”と書いてあった。一瞬の逡巡、そして改めて慌てて前を向いて走っていった。ふふっと笑ってしまった。
 お向さんとはたまのあいさつ程度の付き合いである。男の子にはこれまでに何度か「こんにちは」と言ってみたが、首をすくめるように会釈を返してくれるのが精いっぱいの様子だ。あんまりよく知らないオトナに話しかけられたと感じたか、少し人見知りなのかもしれない。
 男の子は、追い抜きざまに”アレッこのひとひょっとして”と思って、思ったら気になって確認してしまい、私と分かり、目が合ってギクッとなったのだ。
 自分から挨拶をするなんて出来ないのだから、アレッと思ってもそのまま行き過ぎてしまえばいいのに。或いはもう少し注意力があったら、追い越す前に私だと分かった上で知らん顔して駆けていける。”向かいのおばちゃん”かどうか確信が持てなくても、もうちょっとこう、さりげなく確認する、とか。
 出来ないんだな。思いっきり、振り返るんだもん、おばちゃんだって気まずいんだから。